鈴木をはじめLITTLE CREATURESは画用紙にスケッチをするようにやわらかな音を奏でていく、そこに透明感のある持田の声が、水彩の絵筆のように色付けしていく。どの曲も歌っている持田の表情が見えるよう。ちょっとグラムロックを感じる「あたらしき夜」や哲学的なタイトルの「君と僕の消失点」にも透明感がある。
「作品にもよりますけれど、ELTの歌詞では心の葛藤やそこから前向きに進んでいく気持ちを歌っています。意識的にしろ、潜在的にしろ、メッセージ性というのかな、リスナーの皆さんに何かを伝えようとする音楽です。一方、ソロの曲の歌詞は、どこにでも、だれにでもありそうな風景を切り取っている。私の日常やそこから生まれる感情を歌っています。アルバムのタイトル曲『てんとてん』は私のネイルの点のデザインをモチーフに歌詞を書きました。『そりゃ喧嘩もしますし』は大切な人との食事のシーンから生まれました。『Enseigne d’angle』はよく行く原宿のカフェです。ELTの『ソラアイ』の歌詞を書いた店で、そのときのことを思い出しながら書きました」
音楽をありのまま楽しむ域にたどり着くには時間がかかった。
「ELTはもちろん楽しいけれど、とても苦しい時期も経験しました。かつては今よりもハイペースで突っ走っていたので。ミュージシャンとして、こうしなくちゃいけない、というシバリもずっとありました。かっこつけてもいました。恥もかきました。押しつけがましい歌になってしまうのが嫌で、だから迷って、悩んで、思うように発声できなくなる悪循環にも陥りました。だから、かつてのソロアルバムのときは、何かを探したかった。何かを見つけたかった。それで井上陽水さんにプロデュースしていただいたり、小野リサさんや谷山浩子さんとご一緒させていただいいたり、自分で作曲も手掛けてみたり。それによって、ELTとは違う世界を見ることができました。でも今回は、ただ思い切り楽しませていただいたアルバムです。かっこ悪いことも恥ずかしいことも全部ありのままさらけ出した、等身大の私の音楽だと感じています」
そのマインドになるには、結婚が大きな転機になった。