ここで、賢明な読者は既にお気づきのとおり、構想は「廃止」されたのではなく、「凍結」されたというのがポイントだ。官僚たちは、「凍結」で諦めたと見せかける。しかし、計画から削除することは絶対にしない。
実は全国の公共事業の中には何十年も前に構想されて、その後、必要性がないことから、全く計画が進んでいないものが数え切れないほどある。しかし、これらのほぼ全ては、「計画凍結」の状態にあって、決して廃止はされない。
第2次安倍政権が誕生すると、その「えこひいき体質」に大きな期待が集まった。政権誕生から1年も経たない13年10月22日朝日新聞(西部本社版1面)には、「海峡道路構想が再燃」という記事が掲載された。そこでは、早くも安倍・麻生両氏の地元事業である下北道路復活の動きが始まったと報じられ、社会面に私の批判的なコメントも紹介されている。
その後は、「国土強靭化計画」の名の下に、「防災」「減災」と言えば何でも通るという雰囲気が蔓延し、族議員と官僚たちが二人三脚で嬉々として踊り出した。そして、今日の国直轄調査開始に至ったのだ。ほとんどの国民はこの間、そんなことには気づいていなかったが、幸か不幸か、今回の事件で、そうした状況が暴露されたということになる。
ここで注目すべきなのは、他の海峡道路とは違い、下北道路関連の地元の動きが他地域に比べて際立って早く、他に先駆けてそれだけが国家事業に格上げされたことだ。まさに、安倍政権の「えこひいき体質」を地元もよく理解して、早々に動き始め、それに応えた安倍総理や麻生副総理が地元への利益誘導を実践したといっていいだろう。もちろん、これは「えこひいき」ではなく、「防災」「減災」のために必要だという理由が表向きには強調される。
しかし、これらの構想が出てきた四全総を見てみると、135ページのうち「安全性の確保」に割かれた記述はわずか5ページ、たったの3.7%に過ぎない。防災・減災などほとんど関心がなかった時代のプロジェクトが、新たな衣をまとって復活したのだ。
四全総が出た32年前。現在の国交官僚のほとんどは入省前だった。しかし、官僚たちに受け継がれる利権確保のDNAは「凍結」では死なない。無駄な構想は、「凍結」ではなく「根絶」しなければ、いつか国民がバカを見ることになるのだ。
「安倍政権の恐怖政治」「内閣人事局に怯える官僚たち」などと言われるが、それは、安倍総理が関心を持つほんの一部の分野でのことだ。それを除く大半の行政分野では、安倍総理は単なるバラマキ政策を野放しにしている。だから、国土交通省のように巨大なバラマキツールを持つ役所から見ると、「安倍さんは本当にいい人だ」などと評価されることになるのだ。
こうした無節操な「昭和の利権政治」を復活・強化させたのが、平成最後の安倍政権だ。そして、これを「令和」の時代に引き継げば、どうなるか。先週の本コラムでも引用した投資の神様ジム・ロジャーズ氏の言葉を再掲しておこう。
<いつかきっと、「安倍が日本をダメにした」と振り返る日が来るだろうー。>
私たちは、どうしたらこの道から抜け出せるのか、真剣に考えなければならない。
※週刊朝日オンライン限定記事