ミュージック・イン・ユー/西山瞳トリオ
ミュージック・イン・ユー/西山瞳トリオ写真・図版(1枚目)| 『ミュージック・イン・ユー/西山瞳トリオ』
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短いようで長かった3年ぶりとなる新作
Music In You / Hitomi Nishiyama Trio

 誰よりも西山瞳本人こそがリリースを待ち望んでいたであろう。前作『パララックス』が2008年9月発売だから、3年ぶりとなる新作だ。続々とピアニストが登場し、流れが速い邦人ジャズ界にあって、3年間は短いようで長かった。

 契約の関係で新作を出したくても出せない状況で、西山はただ手をこまねいていたわけではなかった。ソロ、デュオ、トリオ、ヴォーカリストとの共演など、様々な編成でのライヴ活動を日常的に続け、その場を共有した者だけが体感できる音楽を創造することの価値を高めてきた。作曲家としては8月に再発売された2004年の自主制作盤『アイム・ミッシング・ユー』が全曲オリジナルだったように、キャリア初期から楽曲を作り演奏するスタイルを確立。自分自身にノルマを課してまで作曲にエネルギーを注ぐ姿勢は、自作曲主義のタイプにあっても独自の輝きを放つ。その成果は米「インターナショナル・ソングライティング・コンペティション2009」のジャズ部門で、「Unfolding Universe」が第3位となる快挙で実証し、世界レベルの才能を印象づけたのである。

 大阪在住だった西山はストックホルム録音の第2弾『メニー・シーズンズ』を制作した2007年から、活動の拠点を東京に移行。人脈を広げながら新しい演奏の機会が増し、ベースの佐藤+ドラムスの池長とのトリオを始動させる。クラブ・ギグで他の2リズムと組むことが日常的にある中で、次第に西山にとって彼らとのトリオが特別な存在になっていった。

 本作はバルトークの#6を除き、すべて西山のオリジナル曲だ。#1は日本人である和の心と、一ジャズ・ファンとしても精通するヨーロピアン・テイストが溶け合い、優美な旋律がじんわりと心に染み込んでくる。古い動画機器を意味する#2や、楽曲の世界がゆったりと豊かに広がる#3は、西山の特徴的なメロディ・センスのヴァリエーション。前述の作曲コンペ入賞曲#4は、ピアノとベースの急速調ユニゾンで始まり、直後にベース・ソロへと展開。ピアノ・ソロも緊張感を保ちながら曲を発展させ、そこにドラムスが生き生きとしたエネルギーを吹き込んで、見事に仕上げている。西山いわく、佐藤にしか演奏できないベースの難曲だ。メランコリックな美旋律バラード#5を発見できるのも、本作の大きな喜び。自己満足ではなく聴き手が楽しめることを踏まえて、芸術性と創造性を両立する西山の作曲力と、それを形にしたトリオに、ぼくは賛辞を惜しまない。

【収録曲一覧】
1. Standing There
2. Kinora
3. Pictures
4. Unfolding Universe
5. Just By Thinking Of You
6. Slovak Young Men’s Dance
7. T.C.T. ~Twelve Chord Tune
8. Pathos
9. Syneya
10. Exhibiting The “NOW”
11. Music In You
12. Pictures

西山瞳:Hitomi Nishiyama(p)(allmusic.comへリンクします)
佐藤“ハチ”恭彦:Yasuhiko “HACHI” Sato(b)
池長一美:Kazumi Ikenaga(ds)
橋爪亮督:Ryosuke Hashizume(#12:ts)

2011年3月、東京録音

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