普通に結婚したいだけなのに相手に巡り合えない、ピンとくる人がいない。ミステリー仕立ての物語に引き込まれるうちに、その理由がわかってくる。
「みなさん普通を求めているだけと言うんですけど、その普通は育った家庭によっても違ったりする。婚活は今までの自分の生き方が全部出てくるんです」
と辻村深月さんは語る。
婚活をテーマにした『傲慢と善良』(朝日新聞出版、1600円※税別)の主人公は、30代の男女だ。東京生まれで恋愛経験豊富な架(かける)と、地方で母親の言う通りの道を歩いてきた真実(まみ)が婚活アプリで出会う。婚約にこぎつけたものの、ストーカー被害を訴えていた真実が突然姿を消してしまう。犯人を突き止めようとする架は、少しずつ彼女の過去を知り始める。
執筆の動機は、辻村さんの周りで、男女問わず「婚活」の話題が多くなってきたこと。今までも婚活の苦しさ、地方に生きる閉塞感、母娘の関係などを女性目線で書いてきたが、恋愛経験豊富な男性でも婚活には苦戦する。
「もてヒエラルキー」上位の男性が結婚に踏み切らないでいるうちに彼女から別れを切り出され、復縁に必死になったり、その彼女が別の人と結婚すると自分も婚活を始めたりする例を周りで何人となく見てきた。
「だから今回は、もてる人ともてない人、都会と地方、男と女といった対比を女性目線、男性目線の両方から書いてみたいと思いました」
題名はジェーン・オースティンの『高慢と偏見』が下敷きになっている。英国の地方の上流階級を描いたこの小説では、恋愛の先に結婚があり、母親は5人姉妹をどこに嫁がせるかに頭を悩ませる。では現代において、結婚したくてもできない理由はというと、
「よく言われるのが相手を見下す傲慢さ。もう一つは、本来は美徳とされる善良さではないかと。いい子だから選択できない、真面目に親の言うことをきいて自分で選択してこなかったというような部分ですね。軽薄で女子にだらしない男子のほうが現実にはもてたりするわけで、そんなままならなさを小説で描けたらと」