H.E.R.とは<Having Everything Revealed>の頭文字による。<すべてを明らかにする~すべてをさらけだす>という意味。言うまでもなく、女性の二人称代名詞でもある。

 匿名的な名称で再デビューした背景には、聴き手には、自分自身よりも歌や曲にこそ関心を寄せてほしいという思いがあった。神秘的な印象をもたらす意図もあったとみられる。彼女自身だけでなく、多くの女性が持つ多面性を曲に反映させていたことも命名の理由の一つだったようだ。

 16年にEP『H.E.R.Vol.1』を発表。歌声や楽曲のよさに加え、匿名的な名称や経歴が不詳だった点も注目を集め、ミステリアスなR&Bシンガーとして音楽誌で話題になった。i―Tunesをはじめ全ストリーミング・サーヴィスで6500万回以上の再生回数を記録した。

 アリシア・キーズの再来――そんな評価も得たように、H.E.R.にとって憧れの存在であるアリシアやワイクリフ・ジョンたちから才能を認められ、ブライソン・ティラーがSNSで話題にしたこともブレークのきっかけになった。

 彼女が影響を受けたとして名を挙げるミュージシャンは、ローリン・ヒルとアリシア・キーズ、プリンス、スティーヴィー・ワンダー、アレサ・フランクリンら。オーセンチックなR&B/ソウル・ミュージックに敬意を払い好んできたという。

 音楽的な側面でH.E.R.とともに実質的なプロデュースを担当したのは、ダリル・“Hey! DJ”キャンパー Jr.。ゆったりとしたおおらかなグルーヴ、アンビエントな演奏、サウンドはコンテンポラリーなものだが、作風は90年代やかつてのR&B/ソウルを思い起こさせる。

 加えて、話題になったのは彼女が手がけた歌詞。デイヴィッドに自身の体験を語りながら書いた。再デビューまでの経験を率直にさらけ出したという。

 今回の『H.E.R.』は、既発表のEP3作(全21曲)を収録したコンピレーションだ。

暮らしとモノ班 for promotion
「最後の国鉄特急形」 381系や185系も!2024年引退・近々引退しそうな鉄道をプラレールで!
次のページ
作詞、作曲の才能と表現力に富んだ歌唱…