『第61回グラミー賞』は異例づくしだった。最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞したのは、チャイルディッシュ・ガンビーノの「ディス・イズ・アメリカ」。これまで人種差別問題などから冷遇されてきたヒップホップ系の曲が、主要2部門を獲得したのは初めてだ。同様に“不利”と言われてきた女性アーティストの受賞者数が増えたことも特筆に値する。今回は、最優秀R&Bアルバム賞、最優秀R&Bパフォーマンス賞に選ばれた女性歌手H.E.R.(ハー)に注目しよう。
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受賞作『H.E.R.』は2017年にデジタル配信とLPで発表され、翌年暮れにゴールド・ディスクを獲得。今年2月にCD化された。アンビエントなサウンドをバックに、なめらかでエモーショナルな歌声を聴かせる。
H.E.R.は1997年に米カリフォルニアで生まれたR&Bシンガー・ソングライターだ。本名はガブリエラ・ウィルソン。アフリカ系アメリカ人の父とフィリピン人の母を持つ。父はカヴァー・バンドのメンバーで、家には様々な楽器があり、バンドがリハーサルすることもあった。その影響で、3歳からピアノやギターに親しみ、5歳ごろには作詞作曲を始めていたという。
10歳のとき、テレビ番組に出演し、ピアノの弾き語りでアリシア・キーズの曲を歌った。12歳のときにはタレント・コンテストに出場。そんなこともあり、14歳でRCAと契約し、シングル「Something To Prove」でデビューしている。
その後、新曲の発表が途絶えるが、彼女が語るには“自分探しと恋愛”を重ねながら、創作活動に励んでいたという。ギターやピアノだけでなく、ベースやドラムスなどもこなすマルチ・プレイヤーに成長。本拠をブルックリンに移し、のちに彼女のエグゼクティヴ・プロデューサーとなるデイヴィッド・ハリスと出会う。彼との出会いがH.E.R.としての再出発のきっかけとなり、EP『H.E.R.Vol.1』で再デビューする。