北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏はお化けのジェンダーについて調べたことがあるという。

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 日本のお化けには、なぜ女が多いのだろう、と不思議だった。妖怪の類をぬかし、平家や落ち武者などの例外を考慮しても、有名どころのお化けは大抵女である。番町皿屋敷、お◯わさん、トイレの花子さん、貞子……恨みを養分にした長い黒髪とその静かなたたずまいだけで、圧倒的な恐怖感を与える女のお化け。

「お化け」にも社会が出るのだろう。私はゾンビや西欧風お化け(墓から抜け出したばかりの)には恐怖心を持たないが、貞子は怖い。お◯わさん、は口にしてはいけないとは、先祖代々の教えである。静かな公衆トイレに入ったときは、上から覗く「花子さん」がいないかどうか、つい確認してしまう。髪が伸びる日本人形の存在を信じている。

 海外のお化け事情について調べたことがある。お化けのジェンダー、年代、化けて出る理由など。私の適当な調査によれば、やはり日本のお化け女性率は圧倒的に高め安定の傾向だ。これはいったい、どういうことか。やはりこの国は、女の怒りや、理不尽を強いられる女の悔しさを、潜在的に知っているのではないか。恨みを深めるしかない女の生を、お化けとして昇華させる道をつくったのではないか。

 ということを考えたのも、今日、私は、生き霊に何度かなりかけたからである。会社のスタッフが暗い顔で出勤してきた。通勤電車の中でスマホを見ていたら、性暴力用語が並べられたファイルが送信されてきた。近くの人とファイル等を共有するiPhoneの機能が悪用され、電車の中で「エロ画像」が見知らぬ人から送信される被害が最近、頻発している。「ユイのiPhone」「リナのiPhone」といった女性名がつけられたケータイを狙って、犯人は送りつけてくる。満員電車で、多くがケータイを見つめている中で犯人を特定するのは難しい。ケータイを見ながら、不快な顔をしたり、え?と目をそらせたりなどしている様子を犯人は見て楽しんでいるのだろう。……生き霊が生まれる瞬間である。

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