世界最北の島国の女性ピアニスト
Long Pair Bond / Sunna Gunnlaugs
世界最北の島国であるアイスランドは、温泉の国として知られる。音楽では何と言ってもビョークが世界的に有名。しかしジャズに関しては、日本ではまだまだ一般的ではないのが現状だ。
これは首都レイキャビクで育った女性ピアニストの最新作である。子供の頃はオルガンを学び、ビートルズや民族音楽を演奏。その後ビル・エヴァンスを聴いて、ジャズ・ピアノへと傾倒する。1993年に米ウィリアム・パターソン大学に進み、キース・ジャレット、ボボ・ステンソン、ヨン・バルケといったピアニストを吸収し、マンハッタンのライヴ・シーンを肌で感じながらスキルを磨いた。96年の卒業後は現地でプロ活動をスタート。翌年にトリオの初リーダー作をリリースし、ニッティング・ファクトリー等の出演を通じて、メディアの評価も高まってゆく。ヤン・ガルバレクに刺激されてトニー・マラビー(ts)を起用したクァルテットを率い、アルバムも制作。2000年代に入ると、日本でリーダー作が発売されたこともあるクリスチャーナ(vo)やシグルズール・フロサソン(sax)といった母国の実力者との共演作等で、着実に実績を重ねた。
通産7枚目となる本作は、初リーダー作以来15年ぶりとなるトリオ・アルバムだ。スンナはNY時代から作曲活動に力を注いでおり、その姿勢はアイスランド録音の新作でも同様。自身が書いた4曲のほか、プライヴェートのパートナーでもあるドラマーのスコット・マクレモアが3曲を提供している。#1は透明感に溢れるピアノの音色と、癒しのメロディが印象的で、たちまちスンナの魅力に引き込まれるトラック。シンプルな音を持続させる#2は、前述のミュージシャン名から連想できるECMの世界観との共通点が発見できるはず。ベース・ソロをフィーチャーした#3や、内部演奏を含む#4に認められる3者の密接な関係が、スンナ・トリオのオリジナリティと言えよう。とりわけ痒いところに手が届くようなマクレモアのセンシティヴなドラムスが、ピアノと好ましく共鳴しているのが特筆される。ロック好きゆえのカヴァー2曲では、ベン・ハーパーの#8をフォーキーかつ叙情的にアレンジし、ルーファス・ウェインライトの#10を美旋律に仕立てている。なお本作は資金調達サーヴィスのKickstarterを利用して実現に至った。
【収録曲一覧】
1. Long Pair Bond
2. Thema
3. Autumnalia
4. Elsabella
5. Crab Canon
6. Fyrir Brynhildi
7. Safe From The World
8. Diamonds On The Inside
9. Not What But How
10. Vicious World
2011年4~9月オスロ録音