
NHKの連続テレビ小説「あぐり」に出演したのは、7歳の頃だ。来月29歳の誕生日を迎える三浦春馬さんは、取材当日、舞台「罪と罰」の公演を終えて、スタジオに現れた。3時間半にもわたる濃密な人間ドラマを演じきったあととは思えないような爽やかさ。「普段の生活に、役を引きずること? ないです。この世界に入って20年以上が過ぎていますから。芝居と現実の切り替えは、得意になったのかもしれない」と言って微笑む。
「以前は、役に没入するあまり、日常生活でふと我に返ったとき、『もっと家族や友人や恋人に対して誠実に向き合わないと、人としても役者としても成長できないんじゃないか』と思ったこともありました。でも、最近は、その場その場で全力を出し切って、その場その場を楽しめているせいか、日常生活もきちんと送れているような気がする(笑)」
屈託なくそう言って、「それに俳優って、ちゃんと生きているだけでは要求に応えられない場合もあると思う。何かを失ったり、絶望したり。極限状態で生まれる鋭利な感情を求められたりもするから」と続けた。澄み切っていた彼の瞳が一瞬、翳る。その変化がドラマチックだ。
WOWOWの連続ドラマで初の主役を演じるのが、「連続ドラマW 東野圭吾『ダイイング・アイ』」だ。
「これまでミステリー作品にどっぷり浸かることがあまりなかったんです。今回、僕が演じる雨村は、過去に交通事故を起こしているけれど、ある事件がきっかけで、その記憶を失っている。そこに現れた女性の存在によって、えたいの知れない恐怖に怯える役どころです。えたいの知れないものが、徐々に正体を現していく。そんな、ドラマならではの“次が楽しみになる展開”になっていると思います」
常に新しいことに挑戦している印象があるが、「これまで自分の演じてきた経験が、周囲に対する信用にはつながっても、実績にはならないのが俳優業だと思っています。年齢を重ねていくと、演じられる役の幅は増えていくけれど、毎回違う人間なので、『過去にあれができたから、今回も大丈夫だろう』とはならない。キャリアに甘えないように、いつも挑戦していたいです」と冷静に話す。