市川:いやいや、そんなことないと思いますね。親っていうのは子どもがいくつになっても心配なものだと思いますし、もっと伝えたいことがあっただろうし、こうあってほしいということはたくさんあったと思います。「これで良い」なんてことは思ってもいないでしょうね。
林:でも、今の海老蔵さんをごらんになったら、すごく喜ぶんじゃないですか。歌舞伎をよく知らない人も海老蔵さんは知ってるし、歌舞伎俳優さんというと、皆さん海老蔵さんを思い浮かべると思うんですよ。人気と華という点で、お父さまも「これはすごい役者になるぞ」と思ってらしたと思いますよ。
市川:そうかもしれませんけど、そんなこと私には言いませんからね。父の生前、私がやろうと思っても、父が「ノー」と言うことはたくさんあったんです。でも父が旅立ったことによって、私がやりたいと思ったことは全てやれるようになってしまった。父からすれば、それがいいか悪いかは別として、「さあここからだぞ」というのが本音じゃないかと思います。
林:團十郎を継ぐということは、歌舞伎界のリーダーになるわけですから、六本木歌舞伎みたいな破天荒なことをやりたくても、これからはセーブがかかっちゃうかもしれないですね。
市川:役者が宙を飛ぶ宙乗りだって、CG(コンピューターグラフィックス)だって、昔の歌舞伎俳優も、その時代にそれがあったら取り入れてたはずなんです。ですから、古典をきちんと守りつつ、新型の歌舞伎俳優としてのスタイルというものも、ある程度みんなに嫌われてもチャレンジしていかないと幅が広がらないと思う。その意味でも、いちばん先頭を走っていたいと思いますね。
林:今回、六本木歌舞伎では、三宅健さんと共演なさるんでしょう。六本木歌舞伎は、海老蔵さんが好きなように企画できるんですね。
市川:私の好きなようにというよりも、新しい形の歌舞伎を考えていきたいと思っています。それはみんなで話し合って作っています。
林:なるほど。話を変えまして、勸玄君(長男=八代目市川新之助襲名予定)は、新之助じゃなくて海老蔵になりたかったんですか。
市川:海老蔵になりたいらしいですけど、新之助という名前もいい名前ですからね。順番としては新之助になって、彼の実力が非常にすぐれているならば、早い段階で海老蔵襲名も考えてあげなくちゃいけないなと思っています。