ブルース・スプリングスティーンのブロードウェイでの公演は大絶賛された。会場は、座席数975という小規模なウォルター・カー劇場。ブロードウェイと言えばミュージカルの本場だが、彼の曲をミュージカル化したわけではなかった。単なるコンサートでもなかった。「私、ギター、ピアノ、そして言葉と音楽だけです」とブルース。その特別なライヴを収めたアルバム『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』を紹介しよう。
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ブルースが『アズベリー・パークからの挨拶』でデビューしたのは1973年。ボブ・ディランの再来と言われ、シンガー・ソングライターとして一定の評価を得た。同年に2作目『青春の叫び』を出したが、いずれも成功とは言い難い結果に終わった。
ブレークしたのは、3作目の『明日なき暴走』(75年)。アルバム・チャートの3位に躍り出た。活動の拠点は、バーやクラブからアリーナに移り、ベストセラー『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』(84年)を発表する頃にはスタジアムでのコンサートが主体となっていた。
それだけに小劇場での公演は大きな話題を集めた。2017年10月にスタートした公演は8週間の予定を大幅に延長し、翌年12月の最終公演までに236回に及んだ。動員数は約22万人にのぼった。その模様を収めた映画『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』(トム・ジムニー監督)がつくられ、サウンド・トラック盤も発売された。
公演の下敷きになったのは、先に出版されてベストセラーとなっていた『ボーン・トゥ・ラン ブルース・スプリングスティーン自伝』。ブルース自らスクリプトを手がけたモノローグによるイントロダクション、それに即して、ギター、ピアノの弾き語りによる曲を演奏するという趣向だ。
ブルースの語りで始まる。“俺はレース・カーを走らせる反逆者でもストリート・パンクでもなく、アズベリー・パークのあちこちで演奏するギター奏者だった”“でも俺には4つの紛れもない切り札があった。若さ、バー・バンドで10年鍛えた筋金入りの経験、俺の演奏を熟知している凄腕のミュージシャンと友達、それに魔法だ”。ここで、デビュー作収録の「成長するってこと」を歌う。