家族が亡くなったときにやるべきことに関するセミナーで説明する明石久美さん(中央、撮影/及川知晃)
家族が亡くなったときにやるべきことに関するセミナーで説明する明石久美さん(中央、撮影/及川知晃)
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相続トラブルの3割は1千万円以下、7割は5千万円以下 (週刊朝日 2019年2月1日号より)
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遺言に関するデータ (週刊朝日 2019年2月1日号より)
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相続税が課税される人は増えている (週刊朝日 2019年2月1日号より)
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2019年以降、相続の制度はこう変わる (週刊朝日 2019年2月1日号より)
2019年以降、相続の制度はこう変わる (週刊朝日 2019年2月1日号より)

 昨年1年間の出生数は過去最少の約92万人で、死亡数は戦後最多の約137万人(人口動態統計推計値)。日本は少産多死社会に入り、遺族を含め、ますます多くの人が死と向き合うようになった。

【知っておこう!2019年からの相続制度改正内容などの図表はこちら】

 死後の手続きで最も大変なのが遺産相続。スムーズに進めるため、必要な備えは何だろうか。

 まず知るべきは、多額の財産を持たない家庭でも、“争続”がたくさん起きていることだ。

 遺産分割でもめると、家庭裁判所で調停手続きなどに入る。争いを金額別にみると、相続財産1千万円以下が3割、5千万円以下が7割超を占める。5千万円以下だと相続税がかからない場合が多いが、争続の回避は財産額にかかわらず考えるべき問題と言える。

 手続きでまずつまずきやすいのが、相続人の確定。

「相続人を確定するまでに数カ月かかることもあります」。そう話すのは、千葉県松戸市にある「明石シニアコンサルティング」代表で相続・終活コンサルタントの明石久美さん。数多くの相続に向き合ってきた。

 確定作業では、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本を取り寄せ、だれが相続人かを確かめる。本籍地が変更されていれば、死亡時からさかのぼって複数の市区町村役場で戸籍謄本を取る。

 被相続人の子が亡くなっていると、孫が代襲相続人になる。その確定のためには、子の戸籍謄本も確認する。子がおらず、両親や祖父母もすでに死去していたら、被相続人のきょうだいが相続人になる。人数が多いと、戸籍集めの作業は膨大になる。

 相続人確定の負担を軽減させる方法は、生前に戸籍謄本を取ること。実際の相続手続きでは、死後に取得した戸籍謄本も必要となるが、どの範囲まで集めるべきかを事前に確認しておけば、遺族の手続きはぐっと楽になる。

 争続となりやすいケースをつかむため、一次相続と二次相続の違いも知っておきたい。一次は、片方の親が死亡して配偶者と子が相続するケース。子どもは相続の際、残された親の生活に配慮することが多い。前妻と後妻の子がそれぞれいる再婚者などを除けば、一次は比較的もめにくい。

 悩みがより深くなるのは、残る親も亡くなって子だけで受け継ぐ二次相続。兄弟姉妹間で争いが起きやすい。たとえば、母が一人で住んでいた家をどうするか。売却して現金にし、子同士で均等に分けられるとよいが、子の一人が「自分たち家族が住む!」と言いだせば、話し合いはこじれる。

 日本財団「遺贈に関する意識調査」(2017年)によると、60歳以上の相続経験者の2割がトラブルに遭遇。最も多いのが兄弟姉妹とのトラブルで、約4割を占めた。

 争続回避の対策の一つが遺言書の作成。自分で書く自筆証書遺言と、公証役場で作る公正証書遺言がある。内容に不備がなければ、相続人全員が集まっての遺産分割協議を省けるなどのメリットがある。

 ただ、元気な親に書いてもらうのは難しい、という人も多いだろう。

「俺の金をあてにしているのか」「俺を殺す気か?」

 千葉県船橋市の50代の男性は、今年83歳の父に遺言書の話を持ちかけたところ、冗談めかしてこう返されて取り合ってもらえなかった。ただ、その後、自治体の終活セミナーに連れ出したところ、書く気になったという。こうした方法のほか、明石さんは「遺言書がなくて残された家族がトラブルになった事例などを話すのもよい」と話す。

 相続を巡っては、相続税を計算する際の非課税枠が15年に縮小された。課税対象者が増え、多くの人にとってより切実な問題になっている。

 19年以降、相続に関する制度が大きく変わる。1月13日から自筆証書遺言を書く際にパソコンで財産目録を作れるようになった。20年7月には遺言を法務局で保管する制度が誕生。故人の配偶者が相続後も自宅に住み続けやすくなる「配偶者居住権」が新設され、義理の両親を介護した「嫁」が相続で報われる制度なども生まれる。(及川知晃)

週刊朝日  2019年2月1日号