だが、多くの場合はそうした趣旨に反して、儀式化してしまっているようだ。今回の法廷でも、多田裕一裁判官は勾留理由を「逃亡や証拠隠滅の恐れがある」と型通りの説明をしただけだった。

 安原氏は「証拠関係を見ていないので断定的なことは言えないが」と前置きしたうえで、こう続けた。

「逮捕の何カ月も前から、特捜部は日産から資料をすべて提出させ、周到に準備して事件に着手したはずです。いまさら証拠隠滅の可能性なんて、ほとんどあり得ないのではないでしょうか。保釈にあたって、パスポートを預かることにすれば、海外逃亡も防止できます」

 自白をしない限り身柄を拘束し続ける日本の捜査手法は「人質司法」と呼ばれ、国内外で批判されてきた。容疑を否認していると、いつまで経っても保釈が認められない。被告人の無実の訴えは裁判所に届かず、冤罪の温床になっている。勾留が長期間に及べば、会社をクビになったり、家庭崩壊したりすることにもつながる。多くのケースで被告人は根負けして、ウソの自白をさせられてしまう。そして起訴されれば、99・9%が有罪になる。日本の刑事司法は、いまだに前近代的な“お白洲”も同然なのだ。

 だが、近年になって変化の兆しもある。裁判所が検察の勾留請求を却下するケースが増えているのだ。全国の裁判所の却下率は05年の0・47%から、17年には4・91%まで上がってきている。14年の最高裁決定も勾留の濫用に警鐘を鳴らすものだった。

 前出・安原氏が指摘する。

「ゴーン氏の場合も初めから否認して争うという姿勢なのだから、保釈させないで自白を得るという捜査手法は邪道です。特捜部は証拠を固めているのなら、自信を持ってスマートにやればいいと思うのですが……。それなのに再逮捕と勾留延長をくり返して、これからまだ何か新しい事実が出てくるかのようなポーズを取っているように見えます」

 特捜部の捜査がどうにもスマートではないのは、やはり事件が“無理筋”だからなのか。

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