藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。2013年7月の参院選で初当選。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中
藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。2013年7月の参院選で初当選。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中
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福岡県内の観光地に置かれた、中国人向けの電子決済「アリペイ」のQRコード (c)朝日新聞社
福岡県内の観光地に置かれた、中国人向けの電子決済「アリペイ」のQRコード (c)朝日新聞社

“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、キャッシュレス化を巡る日中の差を指摘する。

【写真】観光地に置かれた、中国人向けの電子決済QRコード 

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「男は泣いちゃいけない。泣いていいのは財布を落とした時だけだ」。確か落語家の先代林家三平師匠のお言葉だったと思う。私は三井信託銀行入行後、初ボーナス20万円を現金でもらったその日、飲み屋からの帰りに落として号泣した。

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 20年近く前、中国・天津郊外の大学に1週間、金融の講義に行ったことがある。日中友好事業の一環で、宿泊先の学生寮まで中国人通訳が案内してくれた。寮の管理人とインターホンでやりとりして鍵を開けてもらった後、通訳氏は「部屋は5階の○○号室。政府機関に登録が必要なので、パスポートを預かります。明日8時に迎えに来ます」と帰っていった。

 エレベーターがなく重いスーツケースを5階へ上げたら、のどがからからに。部屋で水を飲もうとしたら、ポットにはレントゲンの撮影に使うような白い固体がたまっていて、とても飲めたものではない。

 仕方なく、近所の店へ水を買いに出かけたところ、現金(人民元)の持ち合わせがないことに気づいた。支払いをしようとしても、地元商店街の人たちは円紙幣、トラベラーズチェック、クレジットカードのいずれも見たことがない様子。完全な現金決済社会で水は買えずじまいだった。

 その中国がこの十数年間で、世界に冠たるキャッシュレス社会となった。いつの話だったか、はっきりと覚えていないが、米国のオバマ前大統領が訪中した際、「3年以内にVISAやマスターのクレジットカードを中国内で使えるようにする」と中国側からの約束を取りつけたとのニュースを記憶している。3年たっても、これらのカードは普及しなかった。しかし、クレジットカードを飛び越し、中国はQRコード決済(=店舗での支払時にスマホのアプリなどでQRコードを表示することで決済)の時代になった。

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