
法務省の官僚が遺体で発見される。防犯カメラには白人らしき男性が映っていた。しかし、なぜか捜査態勢は縮小され、真実を知ろうとする警察庁の若手官僚は予想外の運命に巻き込まれていく。今野敏さんによる本誌の連載小説「キンモクセイ」が単行本になった。著者本人に話を聞いた。
「戦後の政治の成り立ちをバックグラウンドに、若手官僚の物語を書きたかった。昔、テレビでハマコーさんが『日本はまだアメリカに占領されてるんだよ』と言っていましたが、的を射ていると思います」
事件には、日米地位協定の運用を協議する日米合同委員会と、防衛省の情報本部が影を落とし、さらに特定秘密保護法、共謀罪法の施行が重なる。
「解釈のしようによって、政府は盗聴でも何でもし放題。そこには日本政府の意思ではない何かが働いている気がします。とくに安倍政権には、アメリカの圧力を感じますね。原発をやめられないのも、アメリカからウランを輸入しているからでしょう」
作中の「本当に恐ろしいことは知らないうちに進行する」という一文に背筋が寒くなる。
作家生活40年。多くの警察小説を書いてきた。警察官のファンも多く、警部の研修会に招かれて講演したこともある。警察に対しては憧れもあれば批判もある。だからこそ、小説で理想的な刑事、警察官を描きたいのだという。
理想の刑事といえば、今野さんは若い頃、「刑事コジャック」「鬼警部アイアンサイド」など、アメリカの刑事ドラマにはまった。警察小説も読み始め、ウィルコックスのヘイスティングス警部シリーズ、リューインの『夜勤刑事』などに夢中になった。
小説家になったばかりの1980年頃は日本の警察小説は盛んではなく、88年に自ら『東京ベイエリア分署』を書いたものの、当時の売れ行きは今一つ。それから30年書き続けたこのシリーズは、最近テレビドラマ「ハンチョウ」になって火が付いた。
警察庁をはじめ、官僚をたびたび主人公にするのは、