漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「まんぷく」(NHK総合、BSプレミアム 8:00~/12:45~ほか)をウォッチした。
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朝ドラ「まんぷく」の主題歌を聴くたびに、腹が立つ私だ。「まんぷく」どころか、「りっぷく」なのだ。何が腹立つって、歌詞だ。「もらい泣き」や「もらい笑い」はまだわかる。
ただ「もらいっ恥じ」が「どんと来い」したからって、何がトゥラッタッタだ、このやろう!と、意味もなくイラッとくるんですね。
まぁドラマの方も、朝ドラ史上初のマッドサイエンティストである萬平(長谷川博己)が、「タンパク質、ビタミンA、ビタミンD(略)、あとはミネラル……まずはミネラル持って来い!」などと、何かをペースト状にしながら、なかなか話が進まない。
あげく進駐軍に勾留され、一体インスタントラーメンはいつできるんだ!と、まさに「朝ドラあるある」展開。ニッカの創業者をモデルにした「マッサン」だって、ウイスキー造らないで、ちんたらパン焼いてましたよ状態なのだ。
そんな、なかなか進まない物語のイライラ成分を吹っ飛ばしてくれる存在が、ヒロイン福子(安藤サクラ)の母・鈴(松坂慶子)だ。決めゼリフは、「私は武士の娘です」。略して「ぶしむす」なんである。
当初は、福子と萬平の結婚を頑なに認めなかったりと、鈴自身がイライラポジションだった。しかし萬平がマッド化していく過程で、ツッコミ&ボヤキキャラにジョブチェンジ。
萬平が塩作りを始めれば、「うちは塩屋になるの?」「いつお金が入ってくるの?」「茶色い!(塩が)」などと、ことごとく視聴者の気持ちを代弁する。
しかし「塩屋はいや!」「私は飯炊きだけやってればいいってことなの? 私は武士の娘よ!」と、話に水をさしても、誰も聞く耳を持たず、「ぶしむす」発言は流されっぱなし。
「私を無視するの!」と叫んでも、みんなまったく無視なのだ。この、すがすがしいまでのないがしろ感が素晴らしい。
朝ドラヒロインの母親役といえば、天国や地元から、温かく主人公を見守り、何があっても応援してくれる心強い存在。
でもね、「ぶしむす」は、ちょっとウザいこと言うゆるキャラみたいなもんだ。隙間でポツリと毒舌を吐いてくれる。
主題歌がどんなにウザくても、「ぶしむす」とだったらトゥラッタッタできそうな、そんな気分よ。
※週刊朝日 2018年12月21日号