サウンド・ストーリーズ/マーシャル・ギルケス
サウンド・ストーリーズ/マーシャル・ギルケス写真・図版(1枚目)| 『サウンド・ストーリーズ/マーシャル・ギルケス』
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ケルン在住の本人からCDが直送されてきた!
Sound Stories / Marshall Gilkes

 アマゾンではMP3のみ、他店ではまだ扱っていないアイテムをいち早く紹介したい。というのもケルン在住のマーシャル・ギルケス本人からCDが直送されたからだ。

 面識のない彼が送ってくれたのは、共通の知人であるドイツ人ジャーナリストの助言を受けてのこと。それだけでも嬉しいが、未知の優れたアーティストを発見できて、御礼の気持ちと共にレヴュー原稿を書きたいと思った。

 1978年生まれ。母親はクラシック歌手で、父親が空軍所属の音楽家だったために幼い頃は米国各地を転々とした。10歳からトロンボーンを始めたことで、その後の進路が固まる。ジュリアード音楽院ではコンラッド・ハーウィッグとワイクリフ・ゴードンに師事。

 2003年度セロニアス・モンク・コンペティションではファイナリストに残って、実力が認められた。翌2004年にはジョナサン・ブレイクを含むクァルテットの初リーダー作『Edenderry』をリリースしている。2008年にはクラレンス・ペン参加の第2弾クインテット作『Lost Words』が登場。並行してマリア・シュナイダーのグラミー受賞作『Sky Blue』や、ジョン・フェチョックのビッグバンド作に参加した。さらに12年間のニューヨーカー・プロ生活を経てケルンへ移住すると、WRDビッグバンドに加入。米欧を股にかけてこのジャンルのトップ・クラスを歩んできたことは、ギルケスの重要なキャリアとして特筆される。

 このリーダー第3弾は前作と同じ5人編成ながら、フロントがトランペットからテナーサックスに交代して、ホーンズを再考。すべてギルケスが書いたプログラムは、3つの2パートからなる組曲が用意されており、ビッグバンドの経験をコンボで反映させる企図も感じられる。本作との初対面で感心したのは、ギルケスの作曲センス。そこには物語性が存在し、単に寄せ集めの編成による一発録りではないコンセプトがあったことは間違いない。

 メンバーで注目すべきは、今作で初参加となったダニー・マッカスリンとアダム・バーンバウム。リーダーとしても多忙な2人が、ギルケスの趣旨をよく理解した上で協力している。これほど潔く自分のプロジェクトを成功させたことは、ギルケスがミュージシャンとしてばかりでなく、関係者の賛同を得られる人間性にも魅力があるからだと想像する。自己のリーダー・ユニットと所属ビッグバンドを両立するギルケス。次の目標として自身のビッグバンドを実現させることも、そう遠い日ではないかもしれない。

【収録曲一覧】
1. Presence - Part 1
2. Presence - Part 2
3. Anxiety - Part 1
4. Anxiety - Part 2
5. Downtime
6. Slashes
7. Bare
8. Armstrong - Part 1
9. Armstrong - Part 2
10. First Song
11. Thruway

マーシャル・ギルケス:Marshall Gilkes(tb)
ダニー・マッカスリン:Donny McCaslin(ts)
アダム・バーンバウム:Adam Birnbaum(p)

2011年4月ニューヨーク録音

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