『小さいサムライたち』(吉岡たすく)を持つ萩本欽一さん(撮影/本誌・多田敏男)
『小さいサムライたち』(吉岡たすく)を持つ萩本欽一さん(撮影/本誌・多田敏男)
星稜高校野球部名誉監督の山下智茂さん(右)から、選手時代に読書を勧められていた松井秀喜さん (c)朝日新聞社 >>その他の著名人の「人生を変えた本」はこちら
星稜高校野球部名誉監督の山下智茂さん(右)から、選手時代に読書を勧められていた松井秀喜さん (c)朝日新聞社 >>その他の著名人の「人生を変えた本」はこちら
「私の人生を変えた本」(週刊朝日2018年11月9日号より)
「私の人生を変えた本」(週刊朝日2018年11月9日号より)

 本は知識を増やすだけでなく心も豊かにしてくれる。「読書の秋」に何を読むべきか。芸能やスポーツ、経営や学術など各界の著名人に、自分を変え、魂を揺さぶった一冊を聞いてみた。

【写真】あの松井秀喜に影響を与えたのは…

 競争を生き抜いてきた経営者は、どんな本を読んできたのか。キリンホールディングスの磯崎功典社長(65)は、『「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯』(城山三郎)。

「父親から『石田禮助のような人間にならなくてはだめだ』と薦められ、読みました。タイトルが非常に印象的です。これは、石田氏が三井物産で社長を務めた後、78歳で財界人から国鉄総裁に就任した後の言葉です。経営者は偉くなればなるほど勲章を欲しがるが、拒んだことでも有名。卑しくない生き方として学んでいます。石田氏の自宅は神奈川県の国府津で、私の実家が近いという縁も感じています」

 もう一冊は『菜根譚』(守屋洋)。処世道を示した古典で、学生時代に中国語を学び漢文好きな磯崎社長の愛読書という。

「人間関係は難しいがそう落ち込むことはない、といった楽観主義の本。人生には様々なことがあるが、その折々に読めば、落ち込まずに済むのです」

 ライフネット生命保険の創業者で、立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さん(70)は、『全世界史(上下)』『0から学ぶ「日本史」講義』など多くの著書がある。

「1冊の本ぐらいで人生が変わるようであれば、人生をなめているのではないか」

 と言うが、「目からうろこが落ちた」本は山のようにあるという。その一つが、『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス)。世界的なベストセラーで、今年2月に40周年記念版が発売。人間の進化を遺伝子の視点から解き明かしている。

「20代のころに読んだが、人間は動物であるということを忘れてはならないと感じ、人間と社会がよりリアルに見えるようになった」

 もう一つが最高の読書論である『橋をかける 子供時代の読書の思い出』(美智子)。20年前にインドで開催された国際児童図書評議会の世界大会で、美智子さまがビデオ講演されたもの。少女時代の本の思い出や、平和を願う思いなどが述べられている。出口さんは国際業務に携わっていたころに読んだ。コピーを10~20部ほどカバンに入れて持ち歩き、「日本人を知りたければこれを読め。ここに日本の知性の典型がある」と、外国人に渡していた。

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