知識のみならず感情を豊かにし、コミュニケーション力も身につけられる読書。芸能の世界で活躍するふたりの読書家にとって「人生を変えた一冊」とは?
アイドルグループ「NEWS」のメンバーで、小説家でもある加藤シゲアキさん(31)が選んだのは、『異邦人』(カミュ/窪田啓作訳)。
加藤さんは24歳のときに出した初の長編小説『ピンクとグレー』が45万部を超える大ヒット。2年前には映画化もされた。歌手や俳優などとして活躍しながら、執筆を続けている。小説を読むようになったのは、「大学生になってから」という。
「人生に影響を受けた本は数多くあります。『きょう、ママンが死んだ』という有名な一節から始まる『異邦人』は、読み切ったとき、心のみならず身体が震えたのを覚えています」
『異邦人』は、論理的な一貫性が失われている男、ムルソーを主人公に、人間社会の不条理を描いた。ムルソーは母の死の翌日に、海水浴に行く。関係をもったマリイが結婚したいかと問えば、「君を愛してはいないだろうが、君が望むなら一緒になっても構わない」と答える。やがて殺人を犯すが、動機を「太陽のせい」と答え、斬首刑を宣告される。
「こんなはちゃめちゃな主人公には誰も感情移入も共感もできそうにない。でも私はこのムルソーという人間に没入し、ラスト、司祭に『心の底をぶちまけ』たシーンではカタルシスさえ感じてしまいました。司祭に吐き続ける叫びを受け止めることができたかどうかはさておき、この場面の狂気や威力は今も自分の心をとらえて離しません」
43歳でノーベル文学賞を受賞したカミュの文章力にも圧倒された。
「文章の巧みさにも舌を巻きます。これを読んで以降、小説を書いていると必ず頭をよぎるようになりました。それほど鮮烈に自分の中に残っている。小説の力を感じる大好きな一冊です」
読書家で知られる俳優の東出昌大さん(30)は、『二十一世紀に生きる君たちへ』(司馬遼太郎)。司馬遼太郎記念館の職員から、「このメッセージを書くにあたって、小説よりも多く、何度も何度も推敲(すいこう)したんです」と説明を受けたという。