複数の研究をまとめた報告では、60歳以上の高齢者では、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使っても十分な利益が得られないと指摘。眠れるというメリットよりも、薬効が残るために生じる転倒や昼間の眠気、もの忘れといったデメリットのほうが大きいという。
内田さんも、60歳以上の新規の患者にはベンゾジアゼピン系は処方せず、治療継続中の患者では薬を減らしたり、他の薬へ変えたりするよう指導している。
「しかし、睡眠薬には依存性があり、変えると眠れなくなる人も多い。そう単純に60歳になったから薬を変えるというわけにはいかない」(内田さん)
今は40、50代の患者でも慎重に見極めながら、ベンゾジアゼピン系以外の薬を処方しているという。
減薬は患者との話し合いのもとで、運動などの生活指導をしていきながら、少しずつ減らしていく。複数の睡眠薬を使っている場合も同様だ。30年間ずっと睡眠薬をやめられなかった患者が睡眠薬なしでも眠れるようになったという。
「もちろん、不眠症を放置したほうがいいというわけではありません。よく眠れることでメリットもあり、全体のバランスを考えて治療方針を考えていかなければなりません」(同)
現在、睡眠薬は、不眠症を専門にしない医師のほうが多く処方しているという話も聞く。例えば、東京都国立市を中心に高齢者の診療にあたる、新田クリニック院長の新田國夫さんは在宅ケアも行う総合診療医で睡眠薬を処方することもある。だが、現在、70歳以上の患者にはベンゾジアゼピン系の薬は処方していないという。認知症との関連が指摘されているからだ。内科などでベンゾジアゼピン系の薬を処方してもらっている人は、一度、主治医に相談してみるといいだろう。
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薬をやめるタイミングについて、年齢は一つの目安で、個人の健康度の要素のほうが大きい。長尾さんが高齢者の元気具合を測る指標によいと考えるのが、日本老年医学会が紹介している「高齢者総合機能評価(CGA)」だ。認知機能の状態や、運動、栄養、閉じこもりの状態などをみる。
「もともとCGAは、高齢者のがん治療を迷ったときなどに使われる指標。減薬が目的ではありませんが、もし点数が低ければ積極的に減薬を検討するなど、大まかな目安になると思います」(長尾さん)
(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2018年11月2日号より抜粋