冷たいものや熱いものを食べたり飲んだりすると、歯がしみるようになってきた。「今日こそ歯医者に行こう」と思いながら、忙しさにかまけて放置しているうちに、「あれっ?」。気づけば痛みがなくなってきたような……。もしかして、これってむし歯が自然に治ったのでしょうか? もう、歯科には行かなくても大丈夫? テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
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むし歯の痛みを放置していたらやがて、痛みが消えてきた……。これはむし歯が治ったのではありません。痛みを感じる歯髄(歯の神経)がむし歯菌に侵され、死んでしまったためです。
もう少し詳しく説明しましょう。むし歯で歯がしみるのは、むし歯が歯の一番外側のエナメル質からその内側の象牙質に達しているサインです。象牙質はエナメル質と比較してやわらかく、象牙細管(ぞうげさいかん)という細い管が歯髄に向かって無数に走っています。
冷たいものや温かいものを食べたとき、あるいは歯みがきや冷風などがあたったときの刺激が象牙質から象牙細管に伝わると、歯髄を刺激します。これが最初の痛みです。
さらにむし歯は象牙質から歯髄を直接、侵します。歯髄がむし歯菌に侵されると、何もしなくてもズキズキと痛みを感じるようになります。
そして、これを放置し、むし歯がさらに進行すると歯髄が死んでボロボロになってしまいます。そうすると歯髄は神経としての機能を働かせることができなくなるため、痛み自体を感じなくなってしまうというわけです。
しかし、痛みが消えている間も、むし歯菌は水面下で増殖を続け、組織を侵食しています。数カ月、あるいは年単位という時間をかけて、歯髄の先にある歯の根の先端までじわじわと進み、その先にある骨(歯槽骨)にまで進んでいきます。骨はむし歯菌に溶かされて、そこに炎症によって生じた膿(うみ)がたまります。
これを「根尖(こんせん)病巣」といいます。膿は出口がないので、袋状にどんどんたまり、周囲の骨や組織を圧迫します。骨には神経があるため、圧迫されると骨折をしたときと同じような激烈な痛みを感じます。まさに「骨の髄まで痛む」という表現がぴったりだといわれています。
膿の袋はどんどん大きくなるため、ひどくなると顎がおたふくのように大きく腫れてしまいます。