岳も中学生になって友達に言われて、それで初めて自分について書かれた本を読んだらしいんです。そしたら、1日に6回メシを食って、便所に6回行くと書いてある。怒って帰ってきて、本を床に叩きつけて「こんな本は日本中から消してくれ!」と言いました。そのときは黙っていましたね。いつかわかってくれるだろうと思っていました。
■焚火で燃やして灰を海にまいて
アメリカに行ったのも「椎名誠の息子」であることから逃れたかったというのも、あったかもしれない。しばらくはギクシャクしていましたが、今は孫を通じていい関係が戻っています。自分が親になって、こっちがどういうつもりで書いたのか、理解してくれたみたいですね。
長い年月がかかりましたが、書かなければよかったとは思っていません。
面白いのが、今、孫たちがお父さん(岳)が出てくる話を読んで喜んでいること。新しい世代に引き継がれたことで、岳のことを書いた本にまた新しい意味が生まれました。
――74歳の今も、日に焼けた顔と引き締まった体は変わらない。今も、ヒンズースクワット300回、腹筋200回、腕立て100回が日課。体脂肪率は一ケタを維持している。健康体そのものだが、あえて人生の締めくくり方を聞いてみた。
作家という仕事は、とくに定年があるわけではなく、やめたくなったらいつでもやめられるのが便利なところ。そもそも、いつの間にかいきなり作家になったんだから、こっそりフェードアウトしていくのも面白いんじゃないかな。
若いころから居酒屋で酒を飲みながら、僕はずっと、カウンターの中にいたいと思っていました。自分が作った料理を、お客がうまそうに食べている姿を見る。キャンプを長くやってきて、世界中のいろんなところにも行ったから、そこそこおいしいものを作る自信はあるんです。海辺の田舎町で、新鮮な魚を自分で釣ってきて。できれば焚火を使った料理も出したい。消防法のことは、さておきとして。まだ遅くはないという気持ちはどこかにあるんです。
自分の最期について、よく仲間と話しているんですけど、何度もキャンプに行った浜で、焚火の上で燃やしてもらいたい。みんなが酒を飲んでワイワイ言いながら、燃えていくのを見ている。灰になったら、目の前の海にまいてもらえたら最高ですね。
(聞き手 石原壮一郎)
※週刊朝日 2018年10月12日号