林:私、前に医療小説を書いたことがあるんですけど、そのときいろいろ調べたら、産婦人科医が手錠をかけられる姿をカメラにさらされて(2004年の福島県立大野病院事件/帝王切開手術を受けた産婦が死亡し、手術を執刀した同院産婦人科の医師が業務上過失致死と医師法違反の容疑で06年に逮捕・起訴された)、あれ以来、産婦人科医の希望者が激減したという話を聞きました。

西川:お産って丑三つ時が多いんですよ。だから当直が多すぎて誰もやりたがらないんです。お給料をすごく高くするとか、この手術をしたらこのぐらいもらえるとかすれば変わると思うんですけど。

林:収入が多くなれば、何時間でもベビーシッターを雇えますしね。

西川:外科ってそれほど儲からないんですよ。例えば白内障の手術だと10分で終わるのに対して、胃がんの手術は4~5時間かかるんですよ。それなのに、どっちも同じ保険点数なんです。

林:まあ、ほんとですか。

西川:4~5時間あったら、そのあいだに白内障の手術は何本もできるから、眼科のほうが得なんです。しかも眼科は点眼麻酔だけで、全身麻酔じゃないので、すぐ回復するから回転もいいし。

林:なるほど。

西川:外科の保険点数を高くして外科の先生が儲かるようにしたら、外科の先生も増えると思うんですよ。産科も3交代制にするとかしたら、もっと働きやすくなって、先生も増えると思うんです。当直して次の日もそのまま勤務という状態では、産科の先生は増えないと思いますね。

林:女医さんの多くは出産時にやめたりしばらく休んだりしますよね。「病院がフォローして、定時に帰れるようにしろ」という意見もあったけど、そういうことって医療の現場で可能なんですか。

西川:定時は無理ですね。医療現場は、長い時間現場にいたら、それだけ学べるという考えなんですよ。医局で何げなくしゃべってることが参考になったりするんです。「5時に帰りましょう」と言っても、5時ぐらいから救急が入ってきたりするし、やっぱり定時に帰るのは難しいと思います。

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