魚乃目三太(うおのめ・さんた)/1975年、奈良県生まれ。漫画家。大学卒業後、建設会社勤務を経て2007年にデビュー。主な作品に『しあわせゴハン』『宮沢賢治の食卓』『昼のセント酒』など。「戦争めし」は「ヤングチャンピオン烈」に連載中。(撮影/大野洋介)
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魚乃目三太(うおのめ・さんた)/1975年、奈良県生まれ。漫画家。大学卒業後、建設会社勤務を経て2007年にデビュー。主な作品に『しあわせゴハン』『宮沢賢治の食卓』『昼のセント酒』など。「戦争めし」は「ヤングチャンピオン烈」に連載中。(撮影/大野洋介)
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 戦中、戦後を生きた人々を「食」の視点から描いた漫画、『戦争めし』の4巻が刊行された。戦闘機で長距離を飛行する際に支給される「航空弁当」、戦後の闇市で広まったというお好み焼きの話など、6編が収録されている。

「40代の僕の世代でも戦争は知らないことだらけ。調べものが多く、取材にも行くので大変な面はありますが、それを上回る驚き、発見、面白さがあります」

 と作者の魚乃目三太さんは言う。

 食と戦争をテーマに選んだのは、テレビで見た一枚の絵がきっかけだった。南方戦線から生還した元日本兵が、森の中を逃げまどう自分の姿を思い出して描いたものだ。

「釘付けになりました。骸骨のようにやせていて、服はボロボロの布切れだけ。敵に襲われるかもしれないのに手には銃やナイフではなく飯盒を持っている。そこに何が入っているのかな、というのが出発点でした」

 戦地での食事は配られるのではなく、兵士が自分でご飯を炊いていたことにまず驚き、図書館で資料を探したり、戦争体験者に話を聞いたりした。

 潜水艦の中での食事(1巻)、戦艦大和で特務士官に人気のあったオムライス(2巻)、沖縄の捕虜収容所で活躍した料理人の話(1巻)など、食にまつわるエピソードがいくつも見つかった。2巻に収録されている「真夏のおでん」は、魚乃目さんと編集者がよく行く居酒屋の主人の話がもとになっている。

 主人が靖国神社に参拝した帰りにそば屋に立ち寄ると、向かいの席のお年寄りが、注文したおでんに手をつけずに下を向いていた。おでんが食べたいと言って亡くなった同郷の戦友を思ってのことだった。魚乃目さんはこうした事実をベースに、過酷な日々の中での心温まる物語を描いている。

「資料を見ていて、涙が止まらなくなることもあります。泣きながら漫画を描いています」

 普段は朝7時半に起きて子供たちと朝食をとり、10時から仕事を始める。10年前、漫画家として何をテーマにするか迷っていたとき、食の漫画を勧めてくれたのは、フランス料理、イタリア料理の経験がある、料理人の妻だった。魚乃目さん自身も料理をするのが好きだったからだ。

 1巻の冒頭で魚乃目さんは読者に、「皆さんは今から70年前、日本が戦争をしていた事を知っていますか?」と問いかける。

「20代のアシスタントは戦争のことをほぼ知らなかったから、苦労したと思います。戦争が大好きな人もいるし、憎くてしょうがない人もいる。僕の漫画はそんなに食い込んだ話はしていないかもしれないけど、漫画を入り口に少しでも興味を持ってくれたら、自分も何か役に立てるかな」

 先月にNHKドラマ化されたのを機に、過去の作品から選ばれた7作とコミックス未収録の5作を収めた『漫画 戦争めし~命を繋いだ昭和食べ物語~』も発売されている。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2018年9月21日号