

ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。トランプ大統領と米メディアの対立を解説する。
【写真】ニューヨーク・タイムズ紙発行人のA・G・サルツバーガー氏
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8月16日に米国の400を超える新聞紙が一斉に「報道の自由」の重要性を訴える社説を掲載した。このキャンペーンは、米ボストン・グローブ紙が呼びかけていたもので、大手新聞から地方紙に至るまで、リベラル、保守といった政治スタンスを超えて、多数の新聞社が応じた。現在米国には大小合わせて1300紙程度あると言われているが、およそ3分の1が参加したことになる。
社説の多くは、報道の自由が危機的状況にあることへの懸念を示した。たとえばニューヨーク・タイムズ紙は「ニュースメディアによる矮小(わいしょう)化や誇張、間違いへの批判はまったく正しい。(中略)しかし受け入れがたい真実を『フェイクニュース』呼ばわりするのは、民主主義の根幹を損ねかねない」と主張した。
彼らが危機感を募らせる背景には、トランプ大統領による執拗(しつよう)なメディア攻撃がある。自身に批判的な報道を「フェイクニュース」と呼び、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙、CNN、その記者らを「フェイクニュースメディア」と攻撃。その上で「フェイクニュースは国民の敵だ」と繰り返し非難する。
大統領就任以前から続くトランプ大統領とメディアとの対立は、7月29日に大統領とニューヨーク・タイムズ紙の間で勃発した論争によりさらに激化。発端は、トランプ大統領が同紙発行人のA・G・サルツバーガー氏とのオフレコ会談を暴露し、「メディアが報じる多数のフェイクニュースや、それがどのように『国民の敵』になっていったかを長時間議論した」とツイッターに投稿したことだった。
この突然のオフレコ破りに対し、サルツバーガー氏はその日のうちに声明を発表。会談に応じた理由を、大統領のメディア攻撃の危険性について警告するためだったと次のように説明した。