しかし、実際は違います。主に抗がん剤や分子標的薬によるがんの薬物療法において、治療効果を表すために使われる言葉です。治療の前後でCTやMRIなどを撮影し、画像上でがんが消失、あるいは小さくなったことをいいます。

 東京女子医科大学病院がんセンター長の林和彦医師は、こう言います。

「たとえ画像上でがんが消失しても、奏効=治る、とならないのは、薬でいったん小さくなったがんが、時間がたつと、再び大きくなってくることが多いためです。これは画像上では見えないがんがあることと、薬の耐性(薬剤耐性)によって薬が効かなくなってきたことなどが主な理由です」

■効く=症状改善の場合も

 なお、近年は薬物療法が進歩し、最初の薬の効果が得られなくなっても、違う薬や組み合わせを変え、2次治療、3次治療と効果を期待できる治療が継続できるケースが増えてきています。

 なお、奏効かどうかの判定は医師の主観ではなく、国際的な基準であるRECIST分類という治療判定にしたがっておこなわれます(血液がんは別の分類)。

「薬物療法はレジメン(治療計画書)にしたがって投与する薬や量、期間が決められており、どのくらいの人やどのくらいの期間効くのかという数値が過去の臨床試験によってわかっています。数値は治療前に患者さんに提示するのが一般的です。ただし、がんの治療では奏効でなく、症状改善を目的におこなうものもあります。この場合、自覚症状がよくなれば『効いた』ということになります」(林医師)

 薬物療法がどのくらいの人に効くかという指標は「奏効率」で示されます。奏効率は完全奏効と部分奏効を合わせた数の割合です。例えば「今回おこなう薬物療法の奏効率は40%」と医師から言われた場合、がんが消失、あるいは30%以上小さくなった人の割合が40%だった(だから同じ程度の治療効果が期待できる)ということになります。

「ただし、臨床試験の結果は一つの目安にすぎません。治療の目標をどこに置くか、主治医と相談し、目標を共有することが大切です」(渡邊医師)

◯取材協力
東京女子医科大学病院がんセンター長化学療法・緩和ケア科教授
林 和彦医師

◯帝京大学病院腫瘍内科准教授
渡邊清高医師

(文/狩生聖子)

※週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」から抜粋

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