中村:桑田は3年春の選抜大会準々決勝で、天理(奈良)からトリプルプレーをとりました。送りバントが小フライになったのをダイビングキャッチして、振り向きざまに二塁へ矢のような送球をしたんです。

渡辺:勝つためにはどうしたらいいか。打球を捕って、それから見たんでは1テンポ遅れる。自分で判断しなきゃいかん。桑田君もそうでしょうが、うちも練習で何回もやりました。

中村:ここは無理しなくていい。ここはいかなあかん。そういう決断力は大事ですよね。桑田と松坂君はよく似ていますよね。人に対してやさしいですし。

渡辺:松坂にとっても、桑田君はあこがれの存在でしたからね。

中村:桑田も松坂君も、外野フライを打たせたら、確認してからマウンドを降りますよね。内野ゴロを打たせたときも一塁へ投げたのを確認してから降りてくる。そういう面も野手からの信頼につながっていくんじゃないでしょうか。

──85年夏の決勝は宇部商が相手でした。

渡辺:宇部商にもホームランバッターがいたでしょ。藤井進君でしたか。

中村:腕っ節の強いバッターで、準決勝まで清原より多い4本塁打を打っていました。決勝でも六回に、センターオーバーの三塁打を桑田が打たれました。

渡辺:ドアスイングなんだが、とにかく飛びましたよね。外角のちょっと高めですね。改めて映像を見ると、桑田君はストレートの割合が多いですな。

中村:スライダーも投げられたんですが、真っすぐとカーブしか投げないと本人が決めていました。

渡辺:球の切れというかな。投球術に長けていました。見た目にきれいなフォームだし、打てそうに感じるけど、打てない。一番やっかいですよ。

──六回に2‐3と逆転されますが、その直後に清原選手の2本目の同点本塁打が飛び出します。

渡辺:例の一発ですな。すごい当たりだった。(映像を見ながら)ドンピシャだ。実況の植草貞夫さんが言うんですよね。「甲子園は清原のためにあるのか!」。私は放送席で唖然としていました。「言葉になりません」と言ってますね。そんな心境だった。「化け物ですな」とも言いましたか。だって怪物を通り越しているでしょ。

中村:清原は準々決勝からエンジンがかかってきた。高知商の中山裕章投手(元中日)からすごい本塁打を放った。推定144メートル、甲子園のレフトスタンドの33段目に打球が落ちたと誰かに聞きました。

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