「捨てられない街角」も砂原の作曲。“アルゼンチンの漁港から日本の漁師町へ出稼ぎにやって来た男がいて、日本人女性との恋愛が始まるんですが、彼は故郷に家族を残している”という物語を考え、下世話でいかがわしさの漂うラテン・テイストのムード歌謡そのままの曲を作ったという。ありそうでなかった名曲だ! そこにバカリズムは家中にあふれる“箱”を“捨てる”“捨てない”でもめるカップルの話を書いた。パートナーの麻生久美子は女優ならではのリアルな歌いぶりを聴かせる。

「レイディオ」は前述の通り。朗読は清楚で初々しい。そんなこともテイを刺激したのに違いない。

「集会」の歌詞は、「覚えてはいけない九九」と同じだが、バック・トラックは「アニマル」のそれ。テイが語るには“女の子が朗読したところ、宗教の集会みたいな雰囲気があるから〈集会〉!(笑)”というから人を食っている。

 最後の「かわいい」は、軽快なアンビエント・テクノ風なサウンドをバックに“かわいい”“かわいくない”がひたすら繰り返される。

 ソロやMETAFIVEとは違った不真面目な願望をSRTAMで具現化したいテイ。それをサポートとした砂原は生真面目。性格の異なる2人によるスタイリッシュなテクノ・サウンドに、バカリズムは下ネタや時代を物語る流行語を避け、日常にありそうなつぶやき、行き違いのままだったり、何だか変だったり、なんてことのない会話など、ユーモアやウィットを込めた歌詞を手がけ、語りや会話で応えた。両者からは奥ゆかしさと洗練がうかがえる。想像力をかきたてる一瞬の語りや会話に引き込まれ、思わずクスッと笑いを浮かべてしまうのだ。(音楽評論家・小倉エージ)

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