「心房細動があると心原性脳塞栓症の発症頻度は、1年間で3~5%、つまり100人に3~5人という高い確率になります」
なぜ心房細動で脳梗塞が起こるのだろうか。
心房細動で心筋が異常に震えると血流がとどこおり、左心房内に血液がよどむ部分ができて、そこに血栓(血のかたまり)ができやすくなる。できた血栓がなにかのきっかけで血流に乗って脳に運ばれ、脳動脈をつまらせて脳梗塞を起こしてしまうのだ。心臓でできた血栓は大きくなりやすく、ひとたび脳動脈でつまれば、広範囲の脳細胞にダメージを与え、命が助かっても重い後遺症が残る確率が高い。
そのため、心房細動が疑われたら、心電図検査、心エコー(心臓超音波検査)などで診断し、早く治療を始める必要がある。発作的に心房細動が起こる発作性心房細動の場合は、検査時に必ずしも発作が起こるとはかぎらないので、24時間心電図を記録するホルター心電図などを用いて、心房細動の把握につとめる。
心房細動が確認されたら、まず薬物療法が検討される。考慮されるのは抗凝固薬、レートコントロール薬、抗不整脈薬(リズムコントロール薬)という薬だ。抗凝固薬は血栓をできにくくして心原性脳塞栓症を予防し、レートコントロール薬(β遮断薬など)は、頻脈を改善して症状を和らげ、抗不整脈薬は心房細動の発生を抑えるのに用いられる。
とくに脳梗塞のリスクの高さをみる「CHADS2スコア」で2点以上になる高リスクの人は、すぐに抗凝固薬の服薬を始める必要がある。CHADS2スコアは次の5項目で6点満点になっている。(1)心不全などの心臓疾患の有無:1点、(2)高血圧:1点、(3)75歳以上:1点、(4)糖尿病:1点、(5)脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往:2点
■第一選択は血栓を予防する抗凝固薬
抗凝固薬は1962年から使われているワルファリンという薬がよく知られている。
血液が固まるには、いくつかの凝固因子が関与するが、ワルファリンはそのうちのビタミンKを必要とする四つの凝固因子の働きを抑えて、血栓を予防する。適切に用いれば安全で効果も高いが、因子の働きを抑えることが逆に脳出血のリスクを高めてしまう。効果に個人差が大きいこともあり、2~4週間に一度、適量かどうか検査する必要がある。また、効果が出るまで数週間かかることや、納豆など、ビタミンKを含む食材を食べられないなどのデメリットがある。
その点を改善したのが、2011年から14年にかけて相次いで登場した直接経口抗凝固薬(DOAC)の4剤(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)だ。
DOACはワルファリンと異なる凝固因子や物質に働きかけるので、脳出血のリスクは低く、効果の個人差が小さいため2~3カ月に一度のチェックですみ、循環器内科を専門としないかかりつけ医でも、適切な処方が可能だ。また効果があらわれるのが服薬後30分~1時間程度と早く、飲食してはいけない食材や薬剤も少ない。
DOACの4剤は効果や副作用に少し違いがあり、服用回数や薬の形も異なるので、患者一人ひとりの適応を見極めて処方される。
ただ、腎機能が低下している人は使えない場合がある。また、ワルファリンが1日あたり約30円なのに比べて、DOACは400~600円と高額な点がデメリットだ。
DOACの服薬で、心原性脳塞栓症のリスクは1年間で1%程度に抑えられるとされている。一方のワルファリンでは1年間で約2%に抑えられる。
東京慈恵会医科大学病院循環器内科教授の山根禎一医師は次のように話す。
「心房細動は良性だから、症状が出ないからと放置してはいけません。脳梗塞を防ぐために、抗凝固薬で早期の治療をする必要があります。できれば一度は循環器の専門医を受診して、適切な治療計画を立ててもらってください」
◯東邦大学医療センター大森病院循環器内科主任教授
池田隆徳医師
◯東京慈恵会医科大学病院循環器内科教授
山根禎一医師
(文/別所文)
※週刊朝日 7月20日号