「私は麻原さんと面会して、どうしてこんな事件になってしまったのか、徹底して真相を追求しましょうと話しました。麻原さんも、ぜひと言いました。なぜなら、地下鉄サリン事件はじめ一連のオウム真理教事件は、麻原死刑囚が直接、関与することはなくマインドコントロールによって、『麻原さん、教祖が言うので実行した』と共犯者は言い、いわば教団のトップという、立場で関与したということなんです。例えば地下鉄サリン事件でサリンを撒いた実行犯たちは、ほとんどが、麻原死刑囚からサリンをまいてこいと言われた人はいない。唯一、井上死刑囚だけが車の中で、指示を受けたと証言しているだけなのです」
麻原死刑囚と弟子たちの間に入っていたのが、刺殺された教団のナンバー2とされた村井元幹部とされ、実行犯と麻原死刑囚をつなぐ証言がなかったという。
「2度とこういう事件が起きないためにも、徹底して裁判所で審理すべきだった。しかし、東京高裁は麻原死刑囚の控訴審で、1度も審理せずに棄却してしまった」(安田弁護士)
中川智正死刑囚と何度も面会してきたのが、米国の化学者でコロラド州立大名誉教授のアンソニー・トゥー氏だ。東京拘置所で5年以上も面会を重ねていた。
「毒性学の権威」で知られるトゥー名誉教授はかつて本誌の取材にこう答えていた。
「中川さんは、とても礼儀正しくなぜこんな犯罪に手を染めたのか信じることができません。世界的にみて、化学兵器が実際に使用されて大量殺人となった例はかつてありません。その意味でオウム真理教事件は、世界から注目を浴びています。なぜ、宗教団体が化学兵器を製造することができたのか。それを散布して大量殺人を起こすことができたのか、徹底して解明したいとの思いで私は中川さんと面会してきました。中川さんも、私の意図をよく理解してくれ、いろいろ話をしてくれました。しかし、まだ解明にまで至っていないときに東京拘置所から移送されてしまった」