作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「梅毒」について。
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梅毒患者が増えているというニュースを目にするようになった。これまで毎年千人に満たないと言われていたのが、2013年あたりからぐんぐん増え続け、昨年は44年ぶりに5千人の患者数が報告された。
少し前から、梅毒患者が増えている、という話は聞いていた。半年前、デリヘルで働く女性に取材したとき、「梅毒の客を見るようになった」という話を聞いた。彼女は看護師でもあったので症状に詳しかったのだけど、梅毒の初期は男性自身が自覚できない場合がほとんどで、ましてや知識のない女性は「何も知らないで口に含んだりしてしまうと思う」と言っていた。
夫に梅毒をうつされた女性もいた(梅毒だけでなく、淋病やクラミジアなど夫から感染する妻の話は決して少なくない)。感染経路については怖くて確認できないというが(聞いても答えないだろうと諦めていた)、結婚前から風俗通いをしているのはうすうす気がついていたという。
性産業を介して梅毒が広まっていると言い切るつもりはない。2017年の東京都の報告では、男性は40代前半が群を抜いて多いが、20代30代もそう大きくは変わらない。一方、女性は男性より患者数は圧倒的に少ないものの、世代でいえば20代前半が圧倒的だ。
コンドームをつけないどころかペニスを洗いもせず女性の口に入れたり、精子を口の中に出すことが「サービス」という感覚の日本の性産業で、「稼げるよ」「慣れれば楽しい仕事」「お金貯めて夢かなえられるよ」など甘言でスカウトされ、またはネット広告等で性産業に取り込まれる若い女性たちが、知識がないまま性感染症の被害にあっている可能性は決して無視できないのではないか。