朝日放送のプロデューサーが「そんなに憎まれてんなら敵役をやれ。『必殺仕掛人』という番組をやるから、それに出ろ」って言ってきた。不倫熱愛でたたかれているが、それも宣伝になるに違いない。喫茶店でもみんなが話題にしている。このすごいパワーを生かさない手はないぞってね。僕としては、四の五の言っていられなかった。

 そしたら、その敵役が評判になって、シリーズごとに何度も出してくれる。毎回、印象に残る面白い殺され方を必死で考えましたよ。

 敵役をシリーズで演じて、初めてその楽しさがわかりました。悪いヤツってのは、最初に好感を持たせておいて、後で裏切る。二枚目だと最初から最後まで変われないからね。

 あるとき、公衆トイレで、掃除のおばちゃんが僕の顔を見て、憎々しげに「こいつは嫌なヤツなんだよ」って言ってくれた。役者冥利に尽きるとはこのことだと思えたね。

――脚本家のジェームス三木、映画監督の伊丹十三、作家の渡辺淳一との出会いも大きかった。

 伊丹さんにはセリフを完璧に臓腑にたたき込む大切さを教わった。セリフを覚えないと軽い芝居ができない、自在に演じることもできない、ってね。渡辺先生は、「男々しいと書いて、“女々しい”と読む。男は本来卑怯でうそつきでズルいもんなんだ。そういう男を演じられるのは津川、おまえしかいない」ってかわいがってくださった。

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