津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
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亡くなったシェフで作家のアンソニー・ボーデインさん(c)朝日新聞社
亡くなったシェフで作家のアンソニー・ボーデインさん(c)朝日新聞社

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国を代表するニュース週刊誌が記事を乱造した理由について解説する。

【写真】亡くなったアンソニー・ボーデインさん

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 著名人が亡くなると、メディアはその訃報(ふほう)を伝えるとともに、故人をしのぶ追悼記事や特集を組む。それはネット時代になったいまも変わらない。6月8日、有名シェフで作家、人気テレビ番組のホストとしても知られるアンソニー・ボーデイン氏の自殺が報じられたときもそうだった。

 第一報が報じられると、すぐさま世界中のニュースサイトが追悼記事を公開した。訃報が伝えられた直後に、故人への注目が最も高まるためだ。

 しかし、その瞬間を狙っているのは既存メディアだけではない。クリックベイト(日本では「トレンドブログ」と呼ばれる扇情的な見出しで読者を釣るサイト)にとっても、著名人の死は格好のネタだ。実際に今回も、「アンソニー・ボーデインの11歳の娘は?」「遺産はいくら?」といったゴシップ的な見出しが、グーグル検索の上位を埋め尽くした。

 これらの記事を乱造していたのは名も知らぬサイトではなかった。「タイム」誌と並び米国を代表するニュース週刊誌「ニューズウィーク」も、その一つだったのだ。硬派で鳴らした週刊誌がクリックベイト記事を乱造していたことに、一般ユーザーのみならず、ジャーナリストや他メディアからも批判が殺到した。

 ニューズウィークほどの老舗の雑誌が、なぜクリックベイトに身を落としてしまったのか。

 その混迷は、半世紀にわたりニューズウィークを所有していた「ワシントン・ポスト」が2010年、膨らむ赤字に耐えかねて同誌を手放したことからはじまる。新興メディア企業の手に渡ったニューズウィークは、デジタル化を模索したものの失敗し、13年に現在のオーナーである新興メディア「IBTメディア(現ニューズウィーク・メディア・グループ)」に売却された。

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