トランプ氏が北朝鮮首脳との会談に応じたのは、「北朝鮮を非核化させること」が、いま彼の頭の中のほとんどを占めている、秋の上下両院の中間選挙で勝つための切り札になる、と確信したためであった。
しかし、会談の結果はトランプ氏優位とはなっていない。彼は会談をディールだと唱えている。ディールは勝つか負けるかしかない。秋の選挙までに、トランプ氏は北朝鮮をどうやって非核化させるつもりなのか。
そして、日本の安倍首相にとって何より重要なのは、北朝鮮による拉致問題である。安倍首相は米朝会談の直前に、わざわざトランプ氏と会って、拉致問題の提起を強く申し入れた。トランプ氏は拉致問題を議題にはしたようだが、はたして金正恩氏はどのように捉えたのか。
安倍首相は、拉致問題については自分が直接金正恩氏と会談して解決したい、と語っている。
ところが、トランプ氏は北朝鮮の非核化作業のための費用を、韓国と日本が負担すべきだ、と述べている。
安倍首相は、拉致問題解決は非核化の後であり、拉致問題が解決しないかぎり北朝鮮への資金提供はしない、と強調しているが、非核化作業の費用負担となると、拉致問題の解決以前ということになる。トランプ氏から「負担せよ」と強く求められたとき、安倍首相は何と答えるのか。
安倍首相は元々、米朝首脳会談に反対だったのである。トランプ氏に100%同意するという姿勢が問われる局面が生じるのではないか。
週刊朝日 2018年6月29日号