スマホ依存度チェックリスト(週刊朝日 2018年6月22日号より)
家族の名前も出てこない。昨日見たテレビの内容も忘れてしまう。MRIで画像診断をしたが記憶をつかさどる脳の海馬部分の萎縮も見られない。ただ、ひどく疲れていた。自宅での様子を尋ねると、弱々しい声でこう答えた。
「ネットで映画を見たり、本を探したり……」
名の通った企業に勤めていた男性だが、定年後に転機が訪れる。疲労骨折で足を痛め、自宅で療養することになった。暇を持て余して仕方がない。試しにインターネットの動画サイトをのぞいてみると、映画やドラマも視聴できるではないか──。動画を見ていると、あっという間に一日が過ぎる。次第に倦怠(けんたい)感と頭痛に襲われ、食欲も失せた。
「認知症ではなくネットの長時間使用による脳過労の状態です。骨折や肺炎などで体調を崩し、自宅にこもるタイミングが端緒となる高齢者が多いですね」(奥村院長)
ネット漬けが続けば、脳疲労が回復することなく、うつ症状も表れ、認知症へと進行する危険性さえある。
男性はIQが高く、最新システムを積極的に取り入れる柔軟なタイプだったそうだが、インターネットに取り込まれてしまったのは皮肉な話だ。
記憶や学習をつかさどる脳の中枢である前頭前野は、ふたつの働きに分かれる。ネット検索など頭を使わずに調べ、一時的に固有名詞を記憶する際に使うのは、浅く物を考えるワーキングメモリーの機能。逆に、じっくりと手紙を書いたり、人と会って話をしたりするなど、五感をフル活動させるのが熟考の機能だ。
元気なときは、友人と喫茶店でコーヒーを飲みながらおしゃべりをしたり、まめに手紙を書いたりしていた女性でも、外出がおっくうになると、電話になり、メールやLINEでメッセージを送る生活になる。それを続けていれば、熟考機能が衰えるのはごく自然な流れだ。最近、物忘れや、仕事の効率が下がってまずいなと感じているあなた。スマホやネットの電源を切って、街に出かけよう。
「出張や旅行でビジネスホテルに泊まったときなど、僕はホテルの窮屈なバスタブには入らず、地元の銭湯を探して、土地の人びとの空気や会話を楽しみます」(奥村院長)
たとえば夕食のお店を、ネットの「食べログ」で探さず、店構えや店内の雰囲気、漂う匂いで、おいしい店を探してみる。新しい発見に刺激を受けた脳が、働きだすに違いない。(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2018年6月22日号