調べるときに、手に取るのは紙の辞書だろうか、それともスマホだろうか。
後者と答えた人は、じわじわと脳をむしばまれる危険性がある。
川島教授は脳機能の働き方について計測実験をしたことがある。
相手の顔を見て話すなど、人を相手にコミュニケーションをしたときの脳を近赤外線分光装置で測ると、前頭前野は活発に動いた。だが、同じ人物と電話やテレビ会議で話をした場合、脳は全く動かない。囲碁についても同様で、人と対面して打つと前頭前野が活発に動くが、コンピューター相手だと動かない。
「前頭前野はリアルなコミュニケーションによって活動することがわかりました」(川島教授)
ペンと紙を使って文字を書いてみよう。漢字を思い出し、書き順にならって丁寧に書くだろう。すべての過程で脳を働かせる必要がある。一方、パソコンやスマホを使う場合はどうか。漢字を忘れていても、ひらがなを入力して変換キーを押せば、自動的に漢字が表示される。人の脳がやるべき作業はITが肩代わりをし、人間がやるべき作業は、漢字が正しいかどうか判断するだけだ。
文字を入力しない、AIによる音声操作が浸透してきたが、この状況に川島教授は一層の危機感を持っている。川島教授によると、フェイスブックの長い文章を読めない人が増えているそうで、LINEやツイッター上の2~3語で構成される文でなければ読むのがつらいのだという。
実は、この2語、3語といった長さの文は2歳児の言語レベル。「その2語文でさえAIの音声操作が代行し、人の行動を補完していくならば、そのうち人が口にするのは『ウー、キー』で済んでしまう。脳を使わず退化した人類は猿以下になるのでは、と本気で思っています」(同)
スマホ依存で脳の働きが鈍くなる。加えて情報の洪水にさらされると、脳の検索や管理機能が働かなくなり、40~50代では脳が「ゴミため」になってしまうと刺激的な指摘をする専門家もいる。さらにスマホを手にする機会が増えてきた高齢者にも“危険”が迫っている。
認知症などの脳神経疾患を専門とする「おくむらメモリークリニック」(岐阜県)の奥村歩院長を訪ねた68歳の男性は、こう訴えた。
「頭がボーッとしてだるい。人としゃべるのもおっくうなんです」