徹底したポーカーフェイス、少し高音域でウィスパーめな発声、学生時代ラグビーで鳴らした厚い胸板の名残、さらにそれらのフェロモン要素に敢えて蓋をするかのように装着した涼しげな眼鏡。その奥から「自分は観られている」という自意識を完璧にコントロールした不敵な眼差しをカメラに向け、「明日は熱中症に注意が必要です」などと囁くのです。なんて罪深い男! アイドルが次々と本音や素顔を自発的に晒す昨今、斉田季実治という男は吉永小百合、松田聖子に次ぐ『最後の虚構』のひとりと言えるのではないでしょうか。あんなにも自我の抑制が行き届いた42歳を私は見たことがありません。正直、同じ『男』として嫉妬すら覚えます。私なんか日に日に枕が嗅いだこともない匂いになっていくというのに。そして、極めつきは『手』です。スーツを纏う男にとって手は唯一『裸』になっているところ。日本列島を覆う等圧線や雲の様子を指し示す彼の手(特にピンと反った親指)からは、桜前線も爆弾低気圧も吹き飛ばすほどのエロスが溢れ出ています。

 しかしそんなパーフェクト・アイドル斉田ですが、毎日のように観ていると、気温が上がった日は普段よりちょっとだけ嬉しそうという、何とも単純な特性があることに気が付きました。たとえ被り物をする時でさえ、常に無表情を保つことが斉田のモットーのはず。それでも「明日は25度を超え、夏日になるでしょう」の「でしょう」が2トーンぐらい高くなってしまうのを私は見逃しません。水商売が長かったせいか、天気と人のテンションの高低差には敏感なんです。ビールの売り上げも変わりますし。

 また、桑子真帆アナウンサーとのやりとりもプレイチックで興奮します。「沖縄地方、そろそろ梅雨入りですかね?」と知ったかぶりをする桑子さんに対し、「それは気象庁が発表するものですが」といつものトーンで返す斉田。ツッコまれて妙に幸せそうな桑子さんを見て満足げな表情の斉田。ああ、私も斉田にツッコまれたい!

週刊朝日  2018年6月8日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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