東京大学大学院の藤田誠教授(60)が、2018年のウルフ賞化学部門をカリフォルニア大学のオマー・ヤギー教授と共同で受賞し、5月31日夜(日本時間6月1日未明)、エルサレムで開かれた授賞式でスピーチをした。
ウルフ賞は同国のウルフ財団が1978年に創設し、化学・農業・数学・医学・物理・芸術の分野で優れた業績をあげた人を毎年表彰している。受賞者の約4分の1が後にノーベル賞を受賞していて、「ノーベル賞の前哨戦」とも言われる。日本人では野依良治、小柴昌俊、南部陽一郎、山中伸弥の各氏がウルフ賞とノーベル賞の双方を受賞している。
藤田教授は千葉大、千葉大大学院の出身。同大助教授、名古屋大学大学院教授などを経て、02年から東京大学大学院工学系研究科の教授を務めている。
自己組織化分子の研究で知られ、有機化合物と金属イオンを混ぜると、分子が自発的に新しい機能や構造を作り出すことを解明。この方法を用いた「結晶スポンジ法」を13年に発表し、X線による分子の構造解析の効率を飛躍的に向上させるなど、応用への道を切り開いた。
ウルフ賞では、そうした業績が評価された。化学部門での日本人の受賞は、2001年の野依氏以来2人目となる。
授賞式の会場となったのは、イスラエル国会。国情を反映してか、入り口でX線荷物検査や金属探知機での身体チェックを実施。出席者はセキュリティーゲートをくぐってホールに入った。
授賞式では表彰に続いて、スライドショーが上映された。藤田教授の回では、「失敗を恐れぬ強い気持ちを作ってくれた」というロッククライミングに興じる若き日の姿や、支えとなった妻と娘2人の写真などが映し出され、趣味が将棋であることも紹介された。
演台に立った藤田教授は、場内の約400人を前に謝辞と喜びを語り、笑顔を見せながら英語で3分ほどのスピーチをした。
「受賞の知らせを聞いたとき、90年夏、この研究の出発点となる概念を発見したのと同時期に、長女が生まれことを思い起こした。どちらも私に新しい驚きと刺激、幸せを与えてくれた。その成長の早さに驚かされ、ときには扱いが難しいこともありましたが(笑)、2人の娘は素晴らしい女性に、私たちの研究はよき青年に育ってくれた」
ユーモアを交えた話しぶりに、会場は温かい笑い声と拍手に包まれた。(エルサレム/週刊朝日・野村美絵)【取材協力/イスラエル大使館】