デビュー20周年、40歳を迎える椎名林檎のトリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』が発売された。“世代・ジャンル・国境・関係を越えるコラボレーション”と銘打たれ、井上陽水、宇多田ヒカル、三浦大知、ライムスター、木村カエラ、松たか子、MIKAら、すごい顔ぶれがそろっている。
所属レコード会社や事務所などでつくる「アダムとイヴの林檎」制作スタッフが人選のうえ、候補曲を絞り込んで各アーティストに提案し、曲が決まったという。初期の『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』、近作の『日出処』からの曲が中心だ。それぞれの楽曲の解釈、編曲、歌唱は、オリジナルから離れ、個性的だ。
1曲目は「正しい街」。椎名林檎と関わりの深い亀田誠治のプロデュースしたtheウラシマ'Sの演奏だ。ヴォーカルが草野マサムネ(スピッツ)、ドラムスが鈴木英哉(ミスター・チルドレン)、ギターは喜多建介(アジアン・カンフー・ジェネレーション)、ベースは是永亮祐(雨のパレード)というスーパー・バンド。
この曲は、椎名のデビュー作『無罪モラトリアム』の幕開けを飾っていた。上京し、“福岡”の街と“君”に別れを告げた女性、その1年後の再会の物語。オリジナルと違い、ストレートなギター・ロックをバックにした草野の歌は、時を経て“あの頃”を振り返るような“遠い目”が思い浮かぶように冷静だ。
それに続くのは宇多田ヒカル&小袋成彬の「丸ノ内サディスティック」。
宇多田は“高校生の頃から大好きでカラオケで歌っていた”という。同じ年にデビューした椎名と宇多田には交友があり、宇多田の『Fantome』では「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」で共演している。小袋も宇多田がその才能にほれこみ、同アルバムの「ともだち with 小袋成彬」で共演し、小袋のデビュー・アルバム『分離派の夏』のプロデュースも手がけた。
ソウル・テイストの洗練されたサウンドをバックに、宇多田はヴィブラート交じりのささやくようなあの独特の歌いぶり。小袋はファルセットをふんだんに採り入れたソウルフルな歌唱を披露している。
レキシの「幸福論」は、ポップなサウンドをバックに、背筋を伸ばした生真面目で律義な歌いぶりなのが面白い。
オリジナル・ラブの田島貴男の「都合のいい身体」は1960年代のソウル・ロックを下敷きに、ジャジーなセンスも織り交ぜ、小粋な歌唱とギター・ソロを聴かせる。“トラップだらけの曲なんですけど、それでいてとてもポップに聞こえるように作られていて。ほのかに狂気を感じる曲ですね(笑)”と田島。椎名の曲作りの巧妙さがうかがえる。