春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。「週刊朝日」の連載をまとめた、初エッセイ集『いちのすけのまくら』(朝日新聞出版刊行、1500円+税)が、絶賛発売中です!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。「週刊朝日」の連載をまとめた、初エッセイ集『いちのすけのまくら』(朝日新聞出版刊行、1500円+税)が、絶賛発売中です!
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春風亭一之輔の「デビュー戦」の思い出とは…(※写真はイメージ)
春風亭一之輔の「デビュー戦」の思い出とは…(※写真はイメージ)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「デビュー戦」。

*  *  *

大学時代を江古田という街で過ごした。初めて酒を飲んだのも江古田。落語研究会に入り、その日に先輩のなじみの居酒屋へ。何杯飲んでも緊張で酔わない。「いけるね!」と先輩たち。

「OBに紹介するよ」と翌日同じ店に7、8人が集まった。OBはみな25~30過ぎの立派な大人だ。唯一の新入部員の私は、たいそうチヤホヤされた。

 いざお開きの段、一番上のOBが「じゃぁ、皆さん。川上くん(私の本名)の入部を祝して……北北西はあちらでよいかな……」と促し、私以外の全員が同じ方角を向いてうつむき、胸の前で両手を組んだ。

「マー・バンドラー・カンテナー・サンダーナー・ハンテーナー………」

 大声で謎の経文のようなものを唱え始める。白目を剥いて、声を一際張り上げる先導者。ざわつく店内。その間、2分。私には2分が2時間にも感じられた。どうやら大変にマズイ団体に入ってしまったようだ。穏便に退部するにはどうしよう……。

「ウーデナー・マハラーダー・サッポン! ウーハー・コーレハー・ホンーノー・ワールーイー・ジョーダーンヨーン……」

 全員で声を合わせて「ジョーダーンダヨーンダヨーンダヨーンダヨヨヨヨーン!」。その後は脱力した勢いで、初めて二日酔いになるほど飲んだ。

 4月末に新入生歓迎コンパがあった。もちろん新入生は私だけ。また「新入生による一発芸披露」という誰も得をしない伝統があるらしい。前日は先輩と飲んでいた。帰り際に「川上、明日は緊張をほぐしてから来い」と一升瓶を渡された。

 翌日、昼過ぎから自宅でなんとなく湯呑みでやり始める。初めて飲んだが、日本酒美味いな。つまみはカールがあればいい。炙ったイカなぞなくていい。しばらくしたらチューハイが飲みたくなってきたので酒屋に買いに。チューハイ日本酒ビール日本酒チューハイ。ビールとチューハイをチェイサーに日本酒。一番やってはならないパターンだ。15時を回ったあたりから知り合いに電話をかけまくって、笑いながら意味不明の経文を唱えていたらしい。気づいたらPHSがガンガン鳴っている。台所に倒れている私。コンパの開始時間はとっくに過ぎている。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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