ヘヴィーなブルース・ロック・ナンバーで、オケ・ヒット、シンセ、SEによるコラージュが施された「リスペクト・コマンダー」からも、ツェッペリンへの“愛”がくみとれる。強靭で粘っこく、うねるギターのスリリングな演奏は圧倒的。本作でのジャックのリード・ギターでは一番の聴きものだ。
「ハイパーミソフォニアック」や「ゲット・イン・ザ・マインド・シャフト」は実験的な音楽展開。ファンク的な演奏を主体にしながら、シンセが飛び交い、ジャズ的なピアノが混在し、後者ではオート・チューンによるボーカルも。
「アブーリア・アンド・アクレーシア」ではヨーロッパ的な叙情味を醸し出すジプシー・ヴァイオリンをバックに、オーストラリアのブルース・ミュージシャンだというC・W・ストーンキングのスポークンをフィーチャー。ジャックがポエトリー・リーディングやラップに挑戦している曲もある。
アルバムを締めくくるのは、なんとドヴォルザークの曲に歌詞が付けられた「ユーモレスク」。アル・カポネが獄中で所持していた楽譜をオークションで入手し、作曲者を知らないまま録音したところ、ドヴォルザークの曲だと教えられたという。
ヘヴィー・メタル、ブルース・ロック、ファンク、ヒップホップにカントリー。様々な音楽的要素が混在した、フリーキーでカオスティックな内容は、奇才であり異才ともいえるジャックならではのもの。突拍子もない展開に意表をつかれる。
ジャックが語るには“2018年をタイム・カプセルに入れたようなアルバム”であり、“今の世界をそのまま反映した作品になった”と。なるほど現在の混沌とした時代を映し出したアルバムである。(音楽評論家・小倉エージ)
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