ヘヴィーなブルース・ロック・ナンバーで、オケ・ヒット、シンセ、SEによるコラージュが施された「リスペクト・コマンダー」からも、ツェッペリンへの“愛”がくみとれる。強靭で粘っこく、うねるギターのスリリングな演奏は圧倒的。本作でのジャックのリード・ギターでは一番の聴きものだ。

「ハイパーミソフォニアック」や「ゲット・イン・ザ・マインド・シャフト」は実験的な音楽展開。ファンク的な演奏を主体にしながら、シンセが飛び交い、ジャズ的なピアノが混在し、後者ではオート・チューンによるボーカルも。

「アブーリア・アンド・アクレーシア」ではヨーロッパ的な叙情味を醸し出すジプシー・ヴァイオリンをバックに、オーストラリアのブルース・ミュージシャンだというC・W・ストーンキングのスポークンをフィーチャー。ジャックがポエトリー・リーディングやラップに挑戦している曲もある。

 アルバムを締めくくるのは、なんとドヴォルザークの曲に歌詞が付けられた「ユーモレスク」。アル・カポネが獄中で所持していた楽譜をオークションで入手し、作曲者を知らないまま録音したところ、ドヴォルザークの曲だと教えられたという。

 ヘヴィー・メタル、ブルース・ロック、ファンク、ヒップホップにカントリー。様々な音楽的要素が混在した、フリーキーでカオスティックな内容は、奇才であり異才ともいえるジャックならではのもの。突拍子もない展開に意表をつかれる。

 ジャックが語るには“2018年をタイム・カプセルに入れたようなアルバム”であり、“今の世界をそのまま反映した作品になった”と。なるほど現在の混沌とした時代を映し出したアルバムである。(音楽評論家・小倉エージ)

●『ボーディング・ハウス・リーチ』(ソニー・ミュージック SICP―31143)

著者プロフィールを見る
小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

小倉エージの記事一覧はこちら