西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒 養生訓】(巻第二の36)
凡(すべて)の事十分によからんことを求むれば、
わが心のわづらひとなりて楽(たのしみ)なし。
禍(わざわい)も是(これ)よりおこる。
養生訓は「○○べからず」「○○べし」という言葉で終わることが多いです。やってはいけないこと、やらなければいけないことにあふれていて、それをしっかり実行するのは大変なことだと思いがちです。ところが、益軒は一方で、「凡の事十分によからんことを求むれば、わが心のわづらひとなりて楽なし。禍も是よりおこる」(巻第二の36)といっています。
つまり、「すべてのことに完全であろうとすると、自分の心の負担になってしまい楽しみがない。ここから不幸がはじまる」というのです。「○○べからず」「○○べし」といわれても、それに対して完璧を求めるなというのです。
さらに「他人が自分にとって十分によくしてくれることを求めて、その人の足りないところを怒りとがめてしまえば、心の負担となる」(同)と続きます。他人に対して完全を求めるのもよくないというのです。
自分の生活についても、こう言います。「日用の飲食、衣服、器物、家居(いえい)、草木の品々も、皆美をこのむべからず。いささかよければ事たりぬ」(同)。身の回りのものによいものばかりを追求しなくても、多少よければ間に合うというわけです。