白髪は高校入学後から徐々に減っていった。思春期を終えて、「めんどくせ。男子高だし、見た目なんか関係ないし。なんなら真っ白でもいーや」と開き直ったら、みるみるなくなってしまった(ちなみにこの頃、詰め襟学ランで家に居たら宅配便のお兄さんに「ご主人様ですか?」と言われた。白髪はなくなったのに、老け顔は加速している)。土日は家でボンヤリ過ごし、どっぷり家族に依存した生活を送るようになると、皮肉なことに白髪は現れない。いや、こんな私にはもう生えてくれなくなったのかもしれない。牙を抜かれ、飼いならされたライオンには白髪は生えないのか……。
今年40をむかえ、久しぶりに出逢う白髪は私の鼻孔にいた。ふと鏡に映すと、両方の穴に4、5本ずつ。今まで周りに甘え、のほほんと生きてきた私の前に急に現れた鼻白髪。「俺たちを見てお前はどう動く?」と吠えるように鼻白髪は太くいきり立っている。抜いた鼻白髪は「奮い立てよ、兄弟」と言ってるようだ。そろそろ立つか。いや、別に組織から『独立』しようという訳ではない。『独りで立つ』のだ。何にも掴まらずに自力で、転んでもいいから立つ。大切なのはその覚悟だ。そうだろ? 鼻白髪よ。
そんなことを思いつつ、上に目をやると頭髪も『独り立ち』していた。寄りかかるものがかなり少なくなっている。上等だよ。やってやるよ。何をやるかは、これから考える。まだ人生折り返したばかりさ。
※週刊朝日 週刊朝日2018年4月13日号