春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。
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何にも掴まらずに自力で、転んでもいいから立つ。大切なのはその覚悟だ。そうだろ? 鼻白髪よ(※写真はイメージ)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「独立」。

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 自由になりたい。大空へはばたく翼が欲しい。親の庇護から抜け出したい。独立したい。幼い頃からそう思って過ごしていた。老け顔だった私。小6で若白髪まで目立つようになった。鏡を覗くと常に7、8本の白髪が目に入る。12歳にして老醜を意識した。あだ名は「じいさん」(そのまんま)。「老白髪(ふけしらが)」(四股名風)。「ワカガシラ」(語順を変えただけで、これはちょっとかっこいい)。

 なんて疎ましいのだ、若白髪。大空に飛んでいきたい私には「見た目の足枷」。お前らが生えてるせいで俺は飛べないんだ。悩めば悩むほど白髪は増えるらしい。「抜くとそこから5本になって増えるんだよ!」と家族は言う。なぜ5本なのか? ソースは? ……わかってるんだ……どうせ俺を狭い鳥かごに繋ぎ留めようっていうでっち上げなんだろう?

 そもそも白髪の、周りの色に決して染まらず、馴染まず、我が道をゆくかんじはなんなのか? ワン・オブ・ゼムにならず、ツンツンと飛び出してくる旺盛な独立心……。私は自分と似たものを若白髪に感じていたのかもしれない。そして芽生える近親憎悪。

 抜いた。抜いて抜いて抜きまくった。勉強部屋にこもり、白髪を抜いては机に端から並べていく。革新派を次々と摘発・粛清していく体制側の無慈悲な官憲のごとし。俺を舐めるなよ。白髪ども。お前らだけに自由になられてたまるか。俺をおいていくなよ。抜いてやる、抜いてやる……。1本抜いて本当に5本になったのかはわからない。が、若白髪たちは力なく横たわりつつ、「君はそれで本当に満足なのかい?」と哀れみの目で私を見上げていた。毛根から抜き取られても、なお凛とした若白髪。明らかに私の負けだ。

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