融和ムードはいつまで続くか(c)朝日新聞社
融和ムードはいつまで続くか(c)朝日新聞社

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が、南北軍事境界線にある板門店での首脳会談開催に合意したことで、事態は急展開している。

 金氏と平壌で会談した韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長は3月8日、米ホワイトハウスで「金氏がトランプ大統領との面会を熱望している」ことを報告した。金氏が非核化の意思を示し、核実験やミサイル発射実験を控えることにも言及していることから、トランプ氏は要請を受諾。「5月までに会う」と応じ、米朝会談まで現実のものとなろうとしている。

 南北接近のきっかけは、金氏が新年の辞で「平昌五輪の成功を祈る」などと、韓国側にエールを送ったこと。北朝鮮が突如として融和ムードに転換したのは、米国からの先制攻撃を警戒していることに加え、国連制裁が重く圧(お)し掛かっているのが明らかだ。対話路線を掲げる文氏もこれに応じ、2月に予定されていた米韓合同軍事演習「フォールイーグル」を、平昌五輪開催を理由に4月1日まで延期していた。

 金氏の実妹、金与正(キムヨジョン)氏が加わった北朝鮮の高位級代表団は、平昌五輪に合わせて訪韓。2泊3日の滞在期間中に文氏は食事接待も含め4回も会談した。

 韓国在住のジャーナリスト、裵淵弘(ペヨンホン)氏が説明する。

「文政権としては、南北融和の対話ムードを高めることで、米朝間の落としどころを模索し、米朝対話の道標を作りたい意図があったのです。平昌五輪では女性応援団を派遣するなど北朝鮮がアピールした印象を与えていますが、水面下ですべてお膳立てしたのは韓国の国家情報院です。文政権としても南北融和の演出は成功裏に終わったと言えるのです。一方、北朝鮮側も国連制裁が続けば、核実験やミサイル発射実験も続けられなくなる。去年やるだけやって、どこかで転換点を見つけて一気に対話路線に転換するという筋書きはあったはずです」

 韓国政府は五輪開会式直前に、南北離散家族の再会事業費として7億3千万ウォン(約7300万円)の予算を確保していた。南北対話、米朝対話の流れは既定路線だったのである。

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