中国の統計を見ると、野菜の生産量は10年の6.5億トンから16年に7.7億トンに増えている。ところが、食用・加工・輸出の合計は4億~5億トンで生産量の6割程度にしかならない。残りの4割は畑で廃棄されたか、流通過程で腐敗したとみられる。輸出も加工もできない品質だったと思われる。
中国農業の衰退を象徴しているのが大豆だ。1993年に94%だった自給率が、2016年にはわずか13%に急落した。16年の中国の輸入は8400万トン(日本のコメ生産量の約10倍)に達し、その後も増え続けている。
世界相場のかく乱要因にもなり、90年代に1トンあたり200ドル前後だった大豆のシカゴ先物相場は毎年上げ足を速め、13年には517ドルに。15年以降も350~360ドルの高値で推移している。
中国の小麦、コメ、トウモロコシの3大穀物の自給率も低下傾向で、大豆同様、今後の世界相場への影響が懸念される。
中国の農業がこれほどまでに“劣化”した要因は複数ある。下の表に列挙したのでご覧いただきたい。紹介した数値の多くは、日本ではほとんど知られていない独自データだ。
【中国農業が不振に陥った要因】
1.化学肥料と農薬への依存が限界に…10アールあたりの農薬使用量は1.7キログラムで世界1位。米国の7倍にあたる=FAO。穀倉地帯である華南の16の省で土地の生産性が低下している=中国統計年鑑。
2.農業就業者の高齢化と就業人口の減少…平均年齢は1992年の32歳から2010年の44歳に=人口センサスなど。16年の第1次産業就業人口はピーク時の91年より1億5千万人少ない2億1千万人。
3.農地の重金属汚染…全国の農地の16%で、カドミウム、水銀、ヒ素、鉛、クロム、亜鉛、銅、ニッケルなどが基準値を超過=中国環境保護部等。
4.水汚染と水不足…11~16年の間に総供給水量が67億立方メートルも減少し、地下水位が低下。内モンゴル呼包平原では10年6月の5.2メートルから、17年6月には8~50メートルに=中国水利部。
5.農家の低所得…農業経営の規模拡大の効果が見られず、16年では非農家の所得が農家の2.7倍と、格差が埋まっていない=中国統計年鑑。4300万人にのぼる貧困層(年収4万円以下)の多くが前近代的農業の担い手だ。
6.国が貸す農業用地の地代の上昇…都市近郊における17年の10アールあたりの地代(年間)は3万5千~5万円で、10年前の数倍にのぼるところもある。
中国の人口は増加中で、ピークを迎える2030年ごろには今より1億数千万人増え、15億人近くに達する見込みだ(中国国家衛生計画生育委員会)。中国農業に、それだけの人口を養う体力が残されているのか。日本に輸出できる体力を回復できるのか──。
※週刊朝日 2018年3月2日号より抜粋