干上がってひび割れた地面。湖の底だった(朝日新聞・益満雄一郎撮影)(c)朝日新聞社
干上がってひび割れた地面。湖の底だった(朝日新聞・益満雄一郎撮影)(c)朝日新聞社
中国農業が不振に陥った要因(週刊朝日 2018年3月2日号より)
中国農業が不振に陥った要因(週刊朝日 2018年3月2日号より)

 世界の穀物生産量の20%超を占める中国の農業が急速に衰退している。安さと品数の豊富さで世界の食卓を席巻してきたが、生産コストの上昇で、国際競争力が低下。すでに野菜・果物の輸出量は輸入量を下回っている。中国に依存してきた日本人の食卓にも影響が出ている。愛知大学国際中国学研究センター所長・高橋五郎氏が現地調査と独自データで“知られざる実態”を報告する。

【<中国農業が不振に陥った要因>はこちら】

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 2017年11月、中国・内モンゴル自治区。私たち調査チームは四輪駆動車に乗り、どこまでも続く地平線の先へ先へと疾走していた。スマホの地図を頼りに「チャガンノール湖」をめざす。

 道路はとっくに途切れている。緑の草木はない。表土は白く、雪原をソリで滑っているような気分だ。遠望する先に建物がうっすらと見えたところでエンジンを切り、車を降りてみた。足元には乾燥土特有の亀裂が走っていた。靴や手で土を掘り起こす。カサカサして、まるで水分がない。

「ここは湖の底だ! 湖がなくなっているんだ!!」

 チャガンノール湖は広さ3600ヘクタール。北浦(茨城県)と同じくらい、諏訪湖(長野県)の3倍ほどの広さだ。それだけの規模の天然湖が、忽然と消えてしまったのだ。

 つい数年前までの写真では、多種多様な越冬渡り鳥、そのエサとなる昆虫や甲殻類などが生息し、湖面には水草も広がっていた。国家湿地公園の核心部で、「鳥の楽園」とも言われていたのに、いまは太い髪の毛のような枯れ草が確認できる程度だ。地表を白くしているのは、湖水に含まれていた塩分に違いない。

 後日、私たちの車の移動記録を精査したところ、湖の岬のかなり沖合を走っていたことが確認できた。現地住民に話を聞いたところ、数年前から湖水がどんどん減り始めたという。

 この惨状の原因は何か。湖の周辺に点在する農場が地下水をくみすぎたせいだと私たちは推測している。農場の地下水が枯れ、本来なら湖に供給される水が枯渇した可能性が高い。

 ここでいったん、中国農業の現状を紹介しておきたい。

 国連統計によれば、中国の16年の食用野菜・果実などの輸出量は1066万トンで、10年前の35%増だ。一方、輸入量はこの10年で1.9倍に急増。輸出を大きく上回り、輸入国へ転落している。

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