ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。デジタルの分野で広告主側の意識に変化が起きていると解説する。
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2016年の米大統領選以降、フェイクニュースやヘイトスピーチの拡散、ロシアによる選挙介入を許したとして、フェイスブックやグーグルなどのプラットフォーム企業に批判が高まっている。これまでは「メディアとしての責任」など企業倫理を問う声が強かったが、最近はビジネスパートナーである広告主から「広告媒体としての責任」が問われているようだ。
2月12日、カリフォルニア州で開催されるデジタル広告業界の国際会合を前に、食品・日用品の世界大手「ユニリーバ」の最高マーケティング責任者であるキース・ウィード氏が、基調講演の要旨を報道各社に伝えた。内容はフェイスブックやグーグルなどのプラットフォームを「フェイクニュースやデマ、差別的表現、過激思想が蔓延する『濁った沼』」と批判するものだった。
「子どもたちを守らず、社会に分断をもたらし、怒りや憎悪を助長するプラットフォームに投資することはない」「社会に良い影響をもたらそうとする責任あるプラットフォームにのみ優先的に投資していく」という方針を明らかにした。広告媒体としてふさわしくない状態を改善できなければ、広告引き揚げも辞さないということだ。
ユニリーバはマーケティング費用に年間約1兆円を投じる世界有数の広告主で、その4分の1はデジタル広告に費やしている。グーグルやフェイスブックにとっても、決して無視できない顧客だ。ウィード氏は、プラットフォームが「信頼」を取り戻すために、広告業界全体が団結して働きかけていくよう呼びかけている。ほかの広告主もユニリーバの動きに追随すれば、売り上げの大半を広告収入に頼るグーグルやフェイスブックは、ビジネスモデルの根幹に関わる問題が生じる。ビジネス的な理由で「信頼回復」に取り組む必要が出てくるのだ。