古い音楽ながら“新鮮で、コードも二つぐらいなのにかっこいいし、アレンジもシンプルだけど面白い”と、40~50年代のカントリーに惹かれた。“カントリーは誰にでもできます”という細野の言葉に刺激され、“やってみよう”と思い立った。実際には、2コードの曲を作っても期待するほどの手応えを得られず、結果的にコードが多く、複雑な曲構成になったという。
本作にはウェスタン・スウィングの「旅行鞄」、ナッシュヴィルの歌手/ギタリスト、ジェリー・リード風のギターをフィーチャーした「夜の飴玉」、チェット・アトキンス風のギターによるインスト「(Theme Of)The Peanut Vendors」といった本格的なカントリー・スタイルの曲もある。
もっとも、ポニーのヒサミツが実践するのはラグ・タイム、スウィングなどのエッセンスを織り込んだカントリー・テイストのグッドタイム・ミュージック的なもの。ポップ色も濃く、それらが巧みにブレンドされている。本人は“なんちゃってカントリー”と評するが、カントリーやポップスへの思いを愚直に表現している点が看板であり、魅力でもある。
その一方で、「Walking Walking」にはニューオーリンズのR&B的な要素があり、アメリカ南部の音楽への傾倒ぶりをうかがわせる。“自分が聴いてきた70年代のアメリカン・ロックとかカントリーとか、SP盤とか、自分の好きな音楽”が反映されてのことだという。
歌詞は総じて面白い。ポップな「春を謳えば」は、どこか心がねじれているし、ラヴ・ソングの「まちあわせ」はトボけた感じがする。旅への憧れを歌った「旅行鞄」は、空想と現実が混ざっている。
ロマンチックでドリーミーな「健忘症」は“相手の女の子の名前を思い出せない男の歌”だし、「夜の飴玉」は“熱帯夜に現れる露出狂の歌”と変態趣味を歌う。「Flying Donut」は、UFOをテーマにしながら、円盤をドーナツに置き換えている。
アルバムのラスト「Happy Old Ending」は、ダニー・ケイが映画『5つの銅貨』で歌う「ラグタイムの子守歌」を下敷きにした。サビでは大滝詠一へのオマージュを込めたという。
ユーモラスでひねりの利いた曲をのびのびと歌う前田卓朗は実にマイ・ペース。ポニーのヒサミツはユニークで憎めない要注目の存在だ。(音楽評論家・小倉エージ)
●『The Peanut Vendors』(なりすコンパクト・ディスク/ハヤブサ・ランディングス HYCA-3067)