失敗は毎回必ずあるんです。言い間違いとか、段取りを飛ばすとか。サーカスの綱渡りのような生番組ですから。でも、僕も黒柳さんも失敗を生かすのがうまくて、観ている人にはわからなかったんじゃないかな。あたかもわざとやったかのように見せようと、失敗した瞬間に考えていました。

――司会を務めていてよかったと思う瞬間というのはありましたか?

毎回思っていました。反射神経の実験みたいなものでしたから。放送が終わると、100m走が終わったあとのようで、タキシードを脱ぐと脇の下がびっしょりになって、ズボンの中に入っているシャツも汗で濡れちゃっているような状態だったんです。そういう異常な緊張から解放される気持ちのよさ、ってなかなかありませんから。

――歌を楽しむ余裕というか、感動はありましたか?

まったくないです。歌の間は、打ち合わせをしていましたから。とくに上位になると時間もないので、大声で怒鳴りあっていました。大音量の演奏が流れているから、声も聞こえにくくて。番組自体は、毎週土曜日にVTRをもらって、おもしろい番組だなって他人事のように観ていました(笑)。

――山口百恵さんが久米さんの隣にいらっしゃるときは、童心に返られたようにはしゃぐ姿が見られました。

そうですね。百恵ちゃんに関しては、自信があったんです。僕はラジオで音楽番組を持っていたので、イチオシだって延々と紹介していたら、少しずつレコードが売れるようになってきて。僕が頑張ったんだ、っていう自負を持っていた。だから、新鮮な反応を引き出すためなら、百恵ちゃんのお尻くらい触ってもいいだろうと(笑)。

――あれは衝撃的な場面でした(笑)。当時は、ファンから田原俊彦さんと松田聖子さんを並べないでほしいなどの要望もあったそうですが、出演者に気を使うことはありましたか?

全然、気を使っていないですね(笑)。ベストテンには出演者からの二大要望というのがあって、ひとつは、歌詞をテロップで流さないでほしい、というもの。歌詞を間違えられないから。もうひとつは、インタビューを歌ったあとにしてほしい、というもの。でも番組としては、歌う前の緊張の最中にあるインタビューのほうがおもしろい。アーティストには負荷がかかるし、とくに初登場の人はかわいそうだなとは思ったけど、見ている人はそれがおもしろいだろうと。また、ほかの歌番組では絶対答えないような言葉を引き出したいと、黒柳さんといつも考えていました。

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